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クリスマスなのに
目が覚めると、朔のおちんちんはまだ抜けていなかった。それどころか、朝勃ちで圧迫感が凄い。
「んぁ····」
「起きたか? 動くぞ」
「へぁ!? イッ··ぅぅぅん!!」
朔は、僕の口を手で塞いだ。
「大畠と莉久がまだ寝てんだ。だから、静かにシような」
無茶な事を言う。······て事は、八千代は起きてるの?
恐る恐る、顔を上げて八千代を見る。凄く悪い顔をして、僕の乳首を摘まみコリコリする。
「はよ。シィー··な?」
そう言って、八千代は僕の乳首を抓った。それも、取れちゃいそうなくらい強く。寝起きにこれは辛い。
「ん゙ん゙ん゙ん゙ん゙っ!!?」
「ふはっ、かーわい」
「ンッ、すげ··締めすぎだ。んぁ、イクッ」
楽しそうな八千代。そして、早々に果てた朔。最高の朝だ。
なんて、誰が思うものか。寝起きから入っているのは初めてじゃないが、寝起きで乳首をもがれそうになったのは初めてだ。八千代には、しっかりとペナルティを与えなければ。
「なぁ、おい。機嫌なおせよ」
「やだ。すっごくビックリしたんだもん」
「痛いのは怒んねぇのか?」
朔が半笑いで聞いてくる。なんだか腹立たしいな。
「痛いのは気持ち良かったんだろ? 場野が容赦ねぇ事にぷんすこしてんじゃねぇの?」
トーストにバターを塗りながら、半笑いで言う啓吾。機嫌の悪い僕に、美味しいトーストを準備してくれている。
結局、りっくんも啓吾も僕の声で起こしてしまった。本当に申し訳ない。
「場野はゆいぴイジメ過ぎなんだよ。ゆいぴが可哀想だろ。寝起きで乳首取るなよな」
まだ僕の乳首は健在だ。取れてはいない。取られてたまるものか。て言うか、どうしてみんな半笑いなんだ。凄く腹が立ってきた。
「乳首あるもん!」
「あっはは! だって結人、『乳首取れたぁ〜』って泣いてたじゃん」
「だっ、て··あの時はホントに取れちゃったと思ったんだもん!」
「可愛すぎかよ〜」
啓吾が僕を抱き締める。褒められている気がしないのだが。
「で、俺はいつまでお前に触れねぇの?」
「夜まで」
「マジかよ。我慢できねぇな」
八千代は、僕に触れないギリギリの耳元で囁いた。
「触りたくなったらいつでも来いよ」
「ひゃぅっ····が、我慢するもん!」
僕は、啓吾にしがみついて言い放った。我慢するって言ってる時点で、負け確定な気がするけど。それでも、何か仕返しがしたいんだ。
でも、折角のクリスマスだから、夜には許してあげる。僕、そこまで子供じゃないもんね。
クリスマスには、遊園地にある大きなツリーを見に行こうと言っていた。ライトアップされるらしく、カップルに人気のデートスポットなんだそうだ。
去年はイブだったし、八千代の誕生日デートで行ったから観ないで帰ってしまったのだ。なので、今年は一緒に観たいとゴネてみた。そういうデートっぽいのを、皆と沢山したいと思ったんだ。
けど、真冬の遊園地が恒例行事にならないよう、来年は違うデートを考えないと。そんな事を考えていると、電車の中なのに啓吾が僕を抱き締めてきた。
「んぁ····。啓吾、どうしたの?」
ふわりと啓吾の匂いに包まれる。けれど、こんな所で幸せに浸っているワケにはいかない。
「んゃ、なんもねぇよ」
と、言う割にキツく抱き締める。まるで、僕を隠すかのように。皆も、こちらを向いて僕を囲んでいる。絶対におかしい。
「ねぇ、外だよ? あんまりギュッてしちゃ──」
「あ〜!! バカップルだ!」
「マジだ! 超偶然だね〜」
「マジでラッキー。クリスマスに眼福だわ」
聞き覚えのある声。うちのクラスの一ノ瀬さんと二宮さん、それに三津井さんだ。
「最悪····」
啓吾がポソッと呟いた。クラスメイトに会うくらい、大した事じゃないと思うのだけど。
「ぅるっせぇのに捕まったな····」
「アイツら彼氏と居るんじゃないのか? なんで声掛けてくるんだ?」
「多分空気読めないんだよ。いくら俺らがカッコイイからってさ、彼氏の前で眼福とかバカなんじゃない?」
皆に囲まれているので見えないが、どうやら皆はデート中らしい。それより、りっくんもおバカみたいな発言をしているが大丈夫だろうか。
わいわいと寄ってくる3人。僕が啓吾の腕を抜けて顔を出すと、キャーキャー騒いで喜んでくれた。彼氏さん達は他校の人らしく、僕を女子だと思っているようだ。安定の勘違いで騒がれずに済む。
そして、まさかの同じ目的地。これには皆、あからさまにゲンナリしていた。八千代なんて、目的地を変えようと言い出したくらいだ。
僕はツリーを観たいと我儘を言い、なんとか遊園地に連れ込んだ。勿論別行動だが、同じ敷地内に居ると思うと嫌なんだそうだ。
見つかれば絡んでくるし、兎にも角にも煩いからだって。元気でいいと思うんだけどな。
「ね、八千代。僕の我儘聞いてもらったし、何かひとつくらい言う事聞くよ?」
「あー····、んなら今度アイツらに会ったら目の前でキスしろ。お前から。彼氏がお前見て可愛いつってんのが1番イラついた」
「あぁ、俺もだ。アイツらも大概だけど、彼女の前で他所の女褒めんのはいただけねぇな」
「女じゃないけどね」
僕は、ホットココアをフーフー冷ましながらツッコんだ。まったく、誰も彼も失礼だ。
「ゆいぴが可愛いんだから仕方ないでしょ。はい、あーん」
落とさないよう両手でココアを持っている僕に代わり、りっくんがドーナツを食べさせてくれている。これじゃ、女の子だと思われても仕方ないのかもしれない。
可愛いと思われるのは諦めたけど、性別を間違われるのはやはり嫌だし悔しい。どうにか男っぽく見えないものだろうか。
そんな無駄な事を考えていると、あれよあれよとお化け屋敷に連れ込まれていた。
「待って、なんで?」
「なんか考え込んでるっぽかったからさ、気分転換にと思って。入るよって言ったら返事しただろ? 上の空で」
上の空だと分かっているのなら、連れ込まないでほしいものだ。僕にも落ち度があるから、文句など言えないが。
去年とは違うコンセプトらしく、今年は廃校で女の子の幽霊に追われるんだとか。入って数メートルだが、もう出たい。
入り口から数十メートルで追われ始めた。きっと、スピーカーから流れる音だけなのだが、追われてる感はとてもリアルだ。自然と進む足が早まる。
けれど、急ぎ早に進むのも難ありまくりだった。学校の七不思議になぞらえた仕掛けが至る所にある。絶対に7つどころじゃない。
10個目くらいの仕掛けで、僕はついに腰を抜かしてしまった。だって、真横に骨格標本が降ってきたんだもの。僕は、絶叫と共にへたりこんだ。
誰が僕を抱えるかで揉めていると、後ろのグループに追いつかれてしまった。まさかの喧 し三人娘達だ。因みに、朔がそう呼んでいたので拝借させてもらった。
「あれ? もしかして腰抜けてんの? 可愛い〜」
彼氏さんの1人が言った。皆がその人を睨む。
「お先どーぞ。あとさ、人の嫁可愛い可愛い言わないでくれる? マジで耳障りだから」
りっくんが好戦的に仕掛ける。彼氏さん達はムッとして、1人が言い返してきた。
「んだよ、女ひとりに集 って。ちょっと面 良いからってビッチ相手に嫁って····なぁ?」
言い終えるや否や、彼の顔面に飛んでったのは二宮さんのバッグだった。
「誰がビッチだよ。失礼過ぎんだろ。体目当てのお前ら と一緒にすんなっつーの」
どうやら、二宮さんの彼氏だったらしい。さり気なく不穏な事を言った気がするが、ツッコめる空気ではない。
「あ゙ぁ!? んだとコラァ」
「女相手に凄んでんじゃねぇよ。ハッ··だせぇ」
八千代が喧嘩腰に口を出すと、もう1人の彼氏さんもキレ始めた。
「テメェら調子こいてんじゃねぇぞ」
「調子こいてんのぁどっちか、教えてやろうか?」
八千代が、ポケットに手を突っ込んだまま歩み寄る。その威圧感ったら、僕ならチビるほどだ。しかし、女子3人は『いけいけ』と囃し立てている。君達の彼氏じゃないのか。それでいいのか。
僕は口も出せず、啓吾の胸にしがみついたまま震えている。情けないったらない。そんな僕を、啓吾が肩を抱いて安心させてくれる。
いよいよ喧嘩が始まる。と言っても、八千代とりっくんは避けているだけ。八千代が、殴りかかってくる彼氏さん達の足を引っ掛けて転ばせた。
転んだ先のセットにぶつかり、そこそこの騒ぎになってしまった。従業員さんが駆けつけ、僕たちは事務所に連れて行かれる。
思ってもみない展開に、僕1人足が震えて歩けない。本当に情けないや····。
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