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皆の元気事情

「結人、もうすぐ着くよ。起きれる?」 「んー····うん」  啓吾に起こされ、目を擦り窓の外を見る。雪の積もった大きな噴水があって、それを囲うように露店が沢山出ている。まるでお祭りだ。  その光景を見て、ワクワクが込み上げ一瞬で目が覚めた。 「んわぁ····噴水、思ってたよりおっきいね。ここからでも見えるんだ」  寒い日には、巨大な噴水から飛び散った水滴が凍り、キラキラと輝いて綺麗なんだそうだ。今日は暖かいから見れそうにないけれど、冬は恋人の聖地になっているらしい。  対して夏は、家族連れで賑わっているんだとか。あんな大きな噴水、子供が喜びそうだもんね。  駐車場へ入り、朔は八千代がしたようにバックで駐車する。 「結人はベタなのが好きだもんな」  そう言って、皆と同様にキスをしながらシートベルトを外す。僕は、真っ赤になったのを自覚しながら、ツンとして車を降りた。  外はやはり寒く、陽射しが嘘のように活躍していない。これなら、少し期待できるかも。そう思い、噴水へと足を運ぶ。 「結人、唐揚げ食う? 俺ちょっと腹減ってきたかも」 「食べる〜!」  啓吾に誘われ寄り道をする。露店を見て歩き、ベンチに座って唐揚げを頬張った。寒いからだろう、僕と啓吾には食べやすい程度に冷めている。  すると、八千代が隣に来て、美味しそうだったからと買った大きなフランクフルトを口に突っ込んできた。八千代が食べるんじゃなかったんだ。 「んぅ····八千代(ひゃひほ)··大きい(ほっひぃ)····」 「ん、美味いか?」 「ん♡」  僕が八千代を見上げて笑顔を見せると、八千代はとても満足そうに笑った。 「お前··、それ言わせたかっただけだろ」  啓吾が呆れたように言うが、何の事だろう。なんでもいいけど美味しい。僕は、八千代からフランクフルト受け取り、一生懸命もぐもぐする。 「フランクフルトってさ、そのつもりで食べさせたら噛まれる瞬間ヒュンてしない?」  と、りっくんが引きつった顔で言う。そのつもりって何のつもりなのだろう。 「あぁ、わかる。なんとなく想像しちまって、金タマがキュッてなるよな」  朔は、とても神妙な顔で同意した。朔が金タマって言うの、なんだか変な感じだな。僕も滅多に言わないけど。  そんな事より、八千代の顔がえっちしてる時みたいに雄っぽいのが気になる。フランクフルトを口に突っ込んだ時からなんだけど、どうしたのだろう。 「ねぇ八千代、えっちシたいの?」  僕は八千代のおちんちんが心配になり、コソッと聞いてみた。 「シてぇつったらここですんのかよ」  隣に座って腰を抱き、耳元でぽそっと言う八千代。それだけでスイッチが入ってしまう僕は、ダメと言わなきゃいけないのに言えないんだよね。 「ど··、どうしても我慢できないんだったら、か、隠れて····?」  なんて言ってしまった。八千代はグッと腰を抱き寄せ、頬を食むようにキスをして言う。 「あの木の影とか? 隠れて犯してやろっか?」  甘い声が脳に響き、お尻がきゅぅぅっと疼く。僕は、八千代の袖を握り『犯して』と強請りそうになった。  けれど、僕たちの甘々な雰囲気を察して、りっくんが果敢に割り込んでくる。 「はいストップね。ここでヤルとかバカなの? 微妙に聞こえてるから。もう! 噴水見に来たんでしょ。ほら、行くよ」  りっくんは僕の手を引き、八千代から奪って歩き出した。ちゃんと聞けなかったけど、八千代のおちんちんは大丈夫なのだろうか。  僕が八千代のおちんちんを心配していると、啓吾が肩を組んで『俺のちんこも心配してよ〜』と言ってきた。八千代と啓吾の性欲はどうなっているのだろう。朝までシていたのに足りないのだろうか。  有り得ないのは分かってるんだけど、もしも僕が相手しないと浮気しちゃうのかな····。なんて、心配になるくらい性欲が強い。僕1人じゃ、相手をしきれていないのだろうか。  りっくんと朔はどうなのだろう。八千代と啓吾みたいに、いつでもどこでもサカってくるわけじゃないし、そういう雰囲気になったら止まらないだけなのかな。  考え出すと、どうにも止まらないのは悪い癖だ。どんどんネガティブな方へと考えが及んでしまう。  そして、またこんな事を聞いたら怒られるのだろうけれど、気になったら聞かずにもいられない。 「皆ね、僕のこと抱けない時どうやって発散してるの? 僕以外で発散しようとか··う、浮気とかって考える?」 「は? 考えねぇよ。一緒に住む前はシコってたけど、今はいつでも抱きに行けるから、学校とかバイトん時は我慢できる」  案の定、不機嫌そうに言葉を投げ返してくる啓吾。そう言えば、一緒に住むようになってからは学校でシなくなった。それまでは、空き教室とかを見つけては襲われていたのに。  そうか、我慢してくれていたんだ。という事は、やはり僕で発散しきれていないということなのだろうか。  僕が俯いて考えていると、りっくんが頬を抱えて持ち上げた。可愛く頬を膨らませている。そして、キッと鋭い視線を向けて言い放つ。 「俺が不倫なんて考えるわけないでしょ? 俺もうゆいぴ以外で勃たないって言ったよね? そんなに不安なら、ずーーーっと抱いててあげよっか?」 「不倫(ふうぃん)······。(うたぁ)ってぅんゃにゃいんやけおね、(みんにゃ)(うぉぅ)満足(まんじょく)れきてるぅか心配(ひんはい)ににゃっちゃって····」  僕は、頬を挟まれ唇をくちばしの様に尖らせたまま話す。 「らってね、(みんにゃ)性欲(しぇいよきゅ)(しゅご)いれしょ?」 「莉久、離してやれ。何言ってるか分かんねぇ」  朔に言われ、りっくんは漸く頬を離してくれた。なので、僕は改めて不安に思った事を伝える。  皆がどれほどの性欲を秘めているのか、そして、それを僕だけで発散できているのか。できていないのだとしたら、その性欲はどうしているのか。  僕は一生懸命伝えたつもりだが、この不安が伝わっているだろうか。一通り聞き終えると、八千代が口を開いた。 「足りてねぇっつぅか、どんだけヤッた後でもお前見てたら抱きたくなんだよ。限界とか今んトコねぇわ」 「俺もねぇな。結人を可愛いと思った瞬間に勃つぞ」 「俺は毎日寝てる時以外は抱きたい。ゆいぴが視界に入ったら抱きたくなる。ちなみに今も」 「俺も限界とか思ったことねぇなぁ。ボーッとして結人のこと思い出したらムラムラするし、俺も結人が視界に入ったらとりあえず犯してぇなって思う」  皆の性欲をナメてた。絶倫だなぁとは思っていたけど、待ち時間があるから復活するのだと思っていた。  だけど思い返せば、1人で朝まで抱けるくらい元気なんだよね。そうなると、不安は膨らむだけなんだけど。 「そ、そんなに元気なの? ··ねぇ、やっぱり僕1人だと処理しきれてないんじゃない?」 「そうでもないぞ。流石に理性っつぅもんがあるからな。それに、朝まで抱かせてくれる日があるからか、普段は1回でもそこまで溜まってる感はねぇ」 「俺は心が満たされれば··ってトコあるかな。1回抱かせてくれたら、その後はゆいぴがトロットロになってるの見てるだけでも満足できるよ」  朔とりっくんは落ち着いてるなぁ。そんな事を思えるのは、八千代と啓吾の理性がとうの昔にご臨終しているからだろう。 「あー····俺はアレだ、結人がいつでもどこでもさせてくれるから安心感ある的な? 物理的に無理な時はそれのおかげで爆発することはない」 「なんか、言ってる事クズ男じゃない? 体目当てみたい。ゆいぴに謝れ」 「えー、なんかごめん? けど、結人のこと性処理の道具とか思ってねぇよね」 「あはは、分かってるよ。今更体目当てだとか思わないよ。けど··うーん····、安心感かぁ。そういうのもあるんだね」  ちょっとよく分かんないけど、高校生の頃みたいなサカり方じゃなくなったのは、そういう事だったのだろう。よく分かんないけど。 「俺も似たようなもんだけどな。結人がずっと近くに居る安心感のがデケェな。前は、お前が逃げ出すんじゃねぇかって不安とかあったから、焦ってたんかもな」 「逃げ··るわけないでしょ。そんな事思ってたの? もう、バカだなぁ····」  僕は照れ隠しに、フランクフルトの串を八千代に刺しながら言った。 「やーめろ、(いて)ぇわ。··まぁ、アレだ。お前見てっと無限に抱けるけど、定期的に抱いて1回出しゃ溜まりすぎる事もねぇし、浮気とか論外な。アホな心配すんじゃねぇよ」  八千代は、そう言いながら僕の頭を優しく撫でた。そして、『今のままで充分満足してるんだよ』と、りっくんが指で頬を撫でながら言ってくれた。  皆の元気事情が分かって少し安心した。僕だけで満足してくれているのならいいんだ。どうやら、おバカは僕だったらしい。

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