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キャンプの思い出
鼻をくすぶる甘い匂いで目が覚めた。誰かの腕に包まれていて温かい。あぁ、啓吾だ。僕は、ギュッと抱き返す。
僕が抱き返すと、啓吾は『おはよ』と言って僕の顔を見る。僕は、啓吾の顔を見上げて答えた。
「啓吾、おはよ。おちんちん硬いね····挿れる?」
「今は挿れなーい。俺ねぇ、結人を風呂に入れるって超重大任務があんの。遂行しないと鬼上官の場野に怒られちゃう」
「あはは、なら早くお風呂行かないとだね」
僕は、まだヨタつく足で立ち上がり、啓吾に手を引かれてお風呂へ向かう。
ガラス張りのお風呂にもいい加減慣れた。見られてるのとか、案外気にならなくなるものなんだね。
「そういえば、皆は?」
「朔は部屋で調べものしてて、莉久は洗濯物干したら飯作るって。んで、場野は買い出し行ってる」
気持ち良くシてもらって寝ていただけの僕。いつもいつも、申し訳ない事この上ない。八千代なんて、あの怪我なのに一人で買い出しに行って大丈夫なのだろうか。
「僕も何かしたい····」
「結人は今から俺と風呂だろ。俺に綺麗に洗われんの担当な」
「えぇ··なにそれぇ」
そんな担当があってたまるものか。僕だって家族の一員として、まともな仕事をしたいんだ。
それなのに、僕が何かしたいと思っていても、抱き潰された後は甘々な仕事しか回ってこない。ってことは、ほぼ毎日そうなんだよね。
なんて、心の中で愚痴を零していたら、あれよあれよと綺麗に洗われて湯船に浸かっていた。啓吾は僕を膝に乗せ、滑り落ちないように体を支えてくれている。
「飯食ったら散歩でも行く?」
なるほど、啓吾は僕のメンタル担当でもあるんだね。
「行く。2人で?」
「俺とお散歩デートは嫌ですか?」
毛先をクルクルしながら、耳元で甘い声を鳴らすなんて狡いや。
「ヤじゃ··ないです。んぅっ····」
えっちはシないと言っていたはずなのに、耳をイジメる啓吾は凄くえっちじゃないか。また固くなっているおちんちんが、僕のヒクつくアナルを撫でる。
啓吾を求めていることなんて、僕の腰が振れているからすぐにバレてしまうだろう。なんなら、もうバレていそうだ。
だけど、啓吾は挿れてくれない。それは、こんなえっちな身体に躾られた僕にとって、優しさなのか意地悪なのか紙一重だ。
お風呂から出ると、りっくんがオムライスを作ってくれていた。例の如く、僕のだけ皆より倍近く大きい。それに、ケチャップで『LOVE♡』って、いつも通りのメッセージが添えられている。
毎度のことながら、僕はそれを写真に収めてからいただきますをする。いつもそうなんだけど、りっくんからの愛情を崩してしまうのが心苦しい。特に、ハートにスプーンを差し込む瞬間なんて、いつも心が痛んで変な顔になっちゃう。
りっくんは毎回、そんな僕をニマニマしながら見てるんだけど、僕の変顔がそんなに面白いのかな。なんだか恥ずかしいや。
食べている途中で帰ってきた八千代。何を買ってきたのかと尋ねたら、鉈だの鎌だのと物騒な物の名前を挙げていった。銛 って、魚を捕まえるアレの事だろうか。
サバイバルにでも行くようなラインナップに、まさか僕が関わる事になるなんて、この時は想像もしなかった。
食べ終わったら、僕は約束通り啓吾とのお散歩デートへ。手を繋いで、近所の森林公園までゆっくりと歩く。
「うちの庭にもちっこい森作れそうだよな」
「雑木林って感じになりそうだけどね」
2人で立ち並ぶ木々を見上げて話す。その流れで、啓吾はポソポソと呟くように言う。
「····結人さぁ、マジで俺らのこと頼りないとかダセェとか思わねぇの?」
「そんなこと思うわけないでしょ」
夕べも何度か聞かれたっけ。皆、どういう思考回路をしているのだろう。あんな状況でもいち早く僕を見つけてくれて、警察より頼もしいなんて思っちゃったくらいなのに。
なんなら僕のほうが、お荷物過ぎて嫌われたり見放されたりしないか不安だよ。そう言うと、啓吾は二ッと笑って『俺ら毎回コレ言ってんね』と言った。
いつも賑やかしい啓吾との、静かで穏やかな時間。不思議なくらいとてもゆっくり流れて、僕の心を確実に癒してくれる。
「結人、身体しんどくない?」
「うん、大丈夫」
大丈夫だと言ったのに、啓吾は池のほとりにあるベンチで休もうかと言う。
少し歩き疲れてきた事に勘づいたのだろう。僕は、黙って従うことにした。
啓吾がソフトクリームを買ってくれたから、ベンチに座って食べる。啓吾は抹茶で、僕のがストロベリーチョコ。
啓吾の抹茶は少しだけ苦くて、僕のを一口あげたら『あっま』と言って自分ので口直しをしていた。
夏も終わりに近づいているけれど、まだまだ日差しは強い。話しているうちに、ソフトクリームがどんどん溶けてしまう。
「わっ、垂れてきた」
「うおっ、俺のもやべぇ」
急いでぺろぺろしている僕と違い、啓吾は半分くらい一気に食べた。それは危険だと承知のはずなのに。
「やーっべ····頭めっちゃキーンてする····」
そりゃそうだろう。かくいう僕も、ぺろぺろしすぎて少しだけキンとしているけれど。揃って顔を顰め、痛いのが落ち着いたらお互い顔を見合せて笑った。
ただのデート。努めてそうしてくれているのが分かる。啓吾らしい気遣い方だ。
帰り道、僕が楽しかったねと言うと、繋いでいる手をブンブン振って喜んでくれる啓吾。こんなに可愛くて大丈夫だろうか。
最近、カフェでもバイトを始めたらしいんだけど、凄く心配になってきた。今度、またこそっと行ってみようかな。
考え込んでいる僕の顔を覗き、啓吾が心配そうに言う。
「どした? 気分悪ぃ?」
「ううん、違うよ。ちょっと考え事しちゃってた」
「ふぅん。ならいいけど··あっ、なんか辛いの思い出したりした?」
「んふふ、それも大丈夫だよ。啓吾が一緒に居てくれるから平気」
「そっか♡ つってもさ、今回はマジでお清めとかでどうこうできねぇのはちゃんと分かってるからな。結人が我慢しちゃうのが俺ら1番ツラいの、忘れんなよ?」
皆の、いつもとは違うお清めの理由。そんなものは明白だった。
手酷い優しさでも甘い折檻でも、どうにもならないほどの傷を、僕が負っていると分かっているから。だからこそ、僕が背負い込みすぎないように、日常を過ごさせてくれているんだ。
「うん。ありがと」
啓吾は僕の頭をふわっと撫で、並木道のど真ん中でキスをした。
周囲の視線なんて、もう気にならなくなっちゃったんだよね。僕の神経も大概図太いや。
そっと唇を離すと、啓吾はへへっと柔らかく笑った。つられて僕もへへっと笑う。
大丈夫。心の傷も、身体の傷みたいにだんだん薄れていくから。それは間違いなく、僕の強さじゃなく皆のおかげなんだよ。
そう伝えたいのに、啓吾はまたキスをした。軽いキスにキュンとして、僕は潤んだ瞳で啓吾を見上げる。
「てかさ、キャンプが結人のトラウマになんないようにしなくちゃなんだよな。って事で、俺らにちょっと考えあっから楽しみにしててよ」
そう言って、パチンとウインクを飛ばした啓吾。一体、何を企んでいるのだろう。楽しみと不安が半々だ。
でも、大好きな啓吾のウインクのおかげで、楽しみがちょちょだけ優勢。ってのは、啓吾がウインクを乱用しちゃうから内緒にしておこう。
そんなこんなで僕のトラウマを気遣った結果、リベンジキャンプが催される事になった。嫌な記憶は上塗りしてしまえと、啓吾が言い出したんだって。まさか、こんな立て続けにキャンプへ来るなんて思わなかったよ。
冬真と猪瀬くんも、呼ばれてビックリしてたみたい。だけど、強引に予定を空けて来てくれるなんて、本当に優しいよね。
そして、なんと今回は、普通のキャンプじゃないんだ。
前回の事を反省して、他人が居なければいいだろうと無人島を丸々借りちゃった八千代と朔。
本当に、やる事が大胆と言うかぶっ飛んでると言うか、イイ意味でイカれた旦那様たちだ。
「初めから無人島に来れば、周りなんて気にしなくて済んだんだな」
「朔····普通ね、キャンプで無人島には来ないんだよ」
「そうなのか? ····そうか。なら、金持ってて良かったな」
ゲスいことを素敵な王子スマイルで言っちゃう朔。爆笑する皆を、朔は呆気にとられた顔で見ていた。
僕だけは、そんな朔も可愛いなって、微笑ましくなったんだけどね。
八千代が買い揃えていた道具は、本当にサバイバルグッズだったらしく、僕も危険のない範囲でやってみた。まさか、テントもなくて寝床まで自作だってのには驚いたけどね。
りっくんと冬真はブーブー文句を言っていたけれど、作り始めるとこれが思いのほか楽しかったみたいで、結局誰よりも張り切っていたのは冬真だった。
波打ち際や熱の残った夕暮れの浜辺、満点の星空の下、人目がないのをいい事にやりたい放題えっちも沢山した。用途不明だった大荷物は、僕と猪瀬くんの為の衛生用品だったらしい。
それから、えっち用に持ってきていたテントを取り出した八千代と朔。しれっと組み立て始めたのを見て、りっくんが『それで寝ればいいじゃん!』キレていた。それを見て笑う、僕と猪瀬くん。
またも2泊3日。この間みたいな危険はない。だけど、この間とは違う大自然の危険がいっぱい。それでも、楽しくて初体験の詰まったサバイバルキャンプができた。
僕の初キャンプは、こうして幕を閉じたのだった。
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