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真尋の成長
青紫色だった痣や小さな擦り傷が治りかけた頃、考えあぐねていた日がやって来た。
おばあちゃんの法事の日の事。法事自体は恙無く終えた。だけど案の定、真尋も泊まるとゴネたので、絶対にえっちな事をしないという条件で皆から了承を得た。
けど、真尋がそんな約束を守るはずもなく、皆が帰った直後に部屋は一緒がいいとか言い出した。子供っぽさを全開にあどけなさを演じて大人を騙し、皆に電話でおやすみをした途端、馬乗りになって雄の顔で迫ってくるんだもん。今すぐ家に帰りたいと思ってる。
「えっちな事シないって言ったでしょ」
「シないよ? 服も脱がさないし、指先だって触れない。キスも、もっと気持ちイイことも、俺からは····ね」
と、真尋は僕の耳に唇を触れさせて言う。ねっちょりと、吐息を漏らすように、とびきりの甘い声で囁くんだ。お尻がきゅんとして切なくなる。
だけど、ここで僕が流されちゃダメなんだ。僕は、強い意志を持って真尋のえっちな誘惑に耐えなくちゃいけない。今日こそは絶対負けないぞ。
そう決心してから数十分。硬くなったおちんちんを僕のと擦り合わせたり、唇が触れるか触れないかって距離で全身への熱い吐息責めが続いている。
やっと僕から降りたかと思ったら、跨ぐらに収まり僕の腿裏をグイッと押し上げ、アナル目掛けて息を吹き掛けてきたんだ。ズボン越しに熱くなって、ヒクヒクしているのがバレているんじゃないかって焦った。
僕から『シて』と言うのを待っているのは、もう充分わかってる。だけど、僕は絶対に求めない。いつも僕が流されちゃうから面倒な事になっちゃうんだよね。という事はつまり、命運は僕に懸かってるんだ。
····でも、僕の息もだいぶ上がってきていて、緩い快感が焦れったくなる度めげそうになってしまう。頑張れ、僕の理性!
懸命に自分を鼓舞していたら、真尋がすっと起き上がった。
「ねぇ結にぃ、ずっと気になってたんだけどさ」
「な、なにぃ?」
ようやく諦めたのか、急に真面目な顔をする真尋。僕は限界ギリギリで、今にも事切れてしまいそうな思考回路を繋ぎとめて返事した。
「えっちぃなぁもう♡ じゃなくて。このアザ、何?」
「えっと····ぶつけた」
「どこで?」
「えーっと····か、壁?」
「ふはっ··壁って····。はぁ····結にぃ、無駄だから隠さなくていいよ。相変わらず嘘下手なんだから」
呆れた顔をする真尋。僕の手を引いて起こすと、向かい合ってちゃんと座り直した。
「今日さ、結構暑かったのに袖も捲らないし、またやらしい痕でもつけられてんのかなぁって思ってたんだけど、コレ違うよね?」
「ひゃぅっ····」
約束に反し、真尋は無断で僕の服を捲り、脇腹の痕に指を這わせて言う。捲れた時に見えてしまったらしい。そして、全身の痣や傷をさりげなくチェックしたみたいだ。
皆がつけるような痣ではなく、暴力的なものだと指摘してくる真尋。なんて鋭いんだろう。僕は、反論できずに黙りこくってしまった。
「黙ってるってコトは認めるってコトでいい? ね、説明してくれるよね?」
僕は、洗いざらい白状した。
途中、何度か声を荒げそうになっていた真尋。それでも、込み上げる怒りを噛み殺しながら最後まで黙って聞いてくれた。
「そりゃ桃ちゃんたちには言えないよね」
「うん。皆もそう言って、バレないように手を回してくれたんだ」
「····あの、さ。何もシないって言ったけど、俺もひとつくらい上書きしていい?」
約束の反故なんて今更だし、イイかダメかで言うとダメだ。なのに、真尋の悲壮な顔を見たら断れなかった。
僕をゆっくりと押し倒し、真尋は脇腹に遺った痣へ口づける。痣があるところを食べてしまうかのように、甘噛みしてからちゅぅっと吸う。
皆から、既に何度も快感で上書きされたはずの所。なのに、真尋からされるのは感覚が少し違った。
「真尋、も、やだ····なんか、擽ったい」
「ならそんなえっちな声出さないでよ。襲ってほしいの?」
「ばかぁ、そんなワケ··んんっ、ないでしょ····」
ひとつだけと言っていた真尋。約束を破って、その隣にある痣も、腰の痣にも吸いついて痕をつけていく。
「アイツらには謝るから。こんなの見せられたら我慢できないよ····」
傷ついた僕を見て、皆と同様に心を痛めてくれる真尋。僕はそんな真尋を、やっぱり拒めない。
真尋は満足すると、僕を胸に収めてベッドに入った。苦しいと言っても、ギチギチに抱き締めて離してくれない。
「真尋、また背伸びたよね」
「うん。170超えたよ」
「中学の時、最後に聞いたのって168センチだっけ? それでも僕より大きかったもんね。実はね、ずっと羨ましいなって思ってたんだ。あはは····僕だけ成長してないみたいで悔しいや····」
真尋は、しょぼくれる僕をさらに強く抱き締めた。
「んぅ··く、苦しい······真尋?」
「結にぃは、今のままが最高に可愛いから気にしなくていいんだよ。それに、メンタルすっごい成長してるじゃん」
皆と同じことを言う真尋。そうだけど、そうじゃないんだよ。
「それは真尋もでしょ」
「俺? 俺こそ変わんないよ。結にぃのコトばっか考えてて、結にぃに惚れてもらえるように頑張ってるだけだからね」
顔を見なくても、声のトーンで真尋がどんな表情をしているのかわかる。きっと、暗い顔をしてるはずだ。
高校で友達と恋バナをしてる時、自分の幼さに改めて気づいたと言う真尋。
僕たちだって、初めの頃はたいして変わらなかった。徐々に関係を構築していったんだから。だけど、今の真尋には、そんな僕たちがかなり遠くに感じられるのだろう。
それと言うのもやはり、朔と八千代の存在が大きいんだと思う。りっくんだってあれでしっかり先を見据えてるし、啓吾もいざって時には凄く頼りになる。
どうやら、僕のスパダリな旦那様方の所為で、真尋の自信をかなり削いでしまったようだ。真尋がダメなわけじゃなく、比べる相手が悪いんだよ。
キャンプでの事件を聞いて、それは一層悪化したらしい。
「アイツらで守りきれない結にぃをさ、俺が息巻いて守れるなんて····とてもじゃないけど言いきれないなって思っちゃんだよね」
真尋は、決して顔を見せないように、僕をキツく抱き締めたまま言う。声が震えている気がするけど、大丈夫だろうか。
「俺さ、今日は結にぃにちゃんと話しようって思ってたんだ」
真尋の手が震えている。一体、何を言うつもりなのだろう。
「俺··、結にぃのことずっとずっと大好きだよ。諦めるとかどう考えても一生ムリ。最近ずっと会えなくて恋しさが増したって感じだし」
なんだ、いつものキザな告白か。そう思った矢先、予想外の言葉が飛び出す。
「けど今は····アイツらに負けないくらい大人になるまで、結にぃを絶対守れるって自信と実力がつくまで、結にぃをアイツらに預けといてあげてもいいかなって思えるようになったんだ。て言うか、さっきの話聞いて決心できた」
あくまで、僕は真尋のモノっていう前提なんだね。どこかズレていると言うか、そもそも僕はとっくに皆のモノで、真尋の入る隙なんて無いんだけどな。
なんて言うと、真尋の決心を踏みにじってしまいそうな気がした。それに、話がまたややこしくなりそうだったから、僕は『うん』と答える事しかできなかった。
真尋は、僕にちょっかいを出すのはやめられないけれど、今すぐにオトすような事やえっちな事は極力しないと約束してくれた。それからこれは、僕と真尋、2人の約束だから皆には内緒だと言う。
これまでの事があるから、皆に言うのは格好がつかないとでも思っているのだろう。ここは真尋の可愛さ····いや、プライドを守ってあげよう。
夜通し話をして、僕たちは朝日が昇る頃、ようやく眠りについた。と言っても、僕はその随分前から半分夢の中で、喋り倒している真尋の話に相槌を打っていただけ。
朝になれば朔とりっくんが迎えに来てくれる。それまで、真尋に温かい時間を少しだけ堪能させてあげよう、なんて考えていた。きっと、こういうのはこれが最後になるだろうから。
それなのに、朝起きたら真尋がまた馬乗りになっていた。そして、両手を押さえ『おはようのキスはスキンシップだよね』と言って唇を奪った。まぁ、当然絶叫したよね。
ぷりぷり怒りながらリビングに行くと、つむちゃんと匠真くんが来ていた。そして、母さんと出掛けるからとつむちゃんに頼まれて、匠真くんを夕方まで預かる事になった。勿論、真尋とセットで。
皆に連絡したら、予想外に快諾してくれた。迎えに来たりっくんは、小さい頃の僕を見ているようだと言って、匠真くんのほっぺをツンツンしてご満悦そうだ。
どう過ごそうか考えていたら、匠真くんが動物園に行きたいと言い出した。行くのは構わないんだけど、ひとつ問題がある。真尋と匠真くんが揃ったら、不思議と匠真くんが迷子になるんだ。
今日は目を離さないように気をつけなくちゃ。まぁ、皆もいるし大丈夫だよね。
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