3 / 37
狂愛《槞唯side》2
一人暮らしにも慣れたもので、案外自分は一人の生活の方が合っていると実感した。
実家を離れてこの高校を選んだ理由は、名門校だから。
父親も母親もその理由で一人暮らしを許してくれた。
本当はただ、解放されたかっただけなのに。
管理された環境も、感情が抑えきれなくて狂いそうな自分も、全てが苦しかったから。
親の期待に応えることで、本当の自分を消した。
求めるものなんて無かった。
―…はず、なのに
考えるのは愁弥さんのことばかり。
欲しいものがあったら、奪ってでも手に入れたい。
そんなことしたら嫌われる。
矛盾が自分を襲う。
生徒会で一緒に仕事できるだけでいいじゃないか。
そう思うようにして感情を抑えている。
精一杯の制御。
「予習でもして、気を紛らわせようか…」
そんな中、携帯の着信が鳴る。
着信は愁弥さんからだった。
「はい」
『ルイ…今何してる』
「家にいます。予習をしようかと思っていたところですが」
愁弥さんからの電話なんて珍しい。
しかもこんな夜に。
電話越しの愁弥さんは元気がないように思えた。
気のせいかもしれないが。
『そこに行ってもいいか?』
「え?」
思いがけない言葉に、心が動揺する。
来る?
愁弥さんが?
ここに?
『嫌ならいいんだ』
「いえ、断る理由も無いので。歓迎しますよ」
『ありがとう。じゃああと30分ぐらいで着くから』
「はい、気を付けて」
電話を切ったあと、自分の心臓の鼓動が速くなっていることに気付いた。
少し片付けをして、途中まで愁弥さんを迎えに行った。
「愁弥さん!」
「ルイ」
もう23時だというのにまだ制服を着たままだ。
しかし手には着替え等の荷物を持っている。
まぁ、深い理由は探索しないようにしよう。
話したければ愁弥さんから話してくれるだろう。
そして家に招き入れた。
「風呂ありがとう」
制服姿のままだったから、入浴を勧めた。
風呂上がりの愁弥さんはやけに魅力的だと思った。
「紅茶とコーヒーどちらがいいですか?」
「気を使わなくていい。勝手に押し掛けたんだから」
いや、むしろこちらとしては願ってもいない来客者で大歓迎なのですが。
「予習すると言ってたな。分からない問題があればアドバイスする」
「ありがとうございます」
特に分からない問題はないけれど、
石鹸の香りを纏っている愁弥さんの隣に居れるだけで頭がおかしくなりそうだ。
チラリと横にいる愁弥さんを見ると、首筋にうっすらキスマークが見えた。
相手は神威さんだろう。
「愁弥さん」
たまに見せる悲し気な表情。
突然の訪問。
何かがおかしい。
「愁弥さん、何かありました?」
「え?」
その一瞬の表情を私は見逃さなかった。
焦った表情。
自分の心が読まれたような表情。
確信した。
「何でそんなこと…」
「悲しい顔してたもので。どうしたんですか?話ぐらい聞きますよ」
その瞬間、愁弥さんの目から涙が零れた。
慌てて手で拭って、顔を横に向ける。
「や…あの、違う。何でもないんだ」
でも愁弥さんの涙は止まらない。
思わず愁弥さんを押し倒した。
そんな顔見せられたら、理性が飛ぶ。
なぜ泣いているのですか?
なぜ隠そうとするのですか?
「ルイっ…」
このまま嫌なことを忘れさせてしまおうか。
ちらつくキスマークが余計に感情を高ぶらせる。
愁弥さんの両手を抑えつけたまま、泣いている愁弥さんを見下ろす。
このまま貴方を抱いてしまおうか―…
その瞬間、愁弥さんの携帯が鳴った。
画面から見える文字は『神威綾』
ハッと我に返り、私は愁弥さんの手を自由にさせた。
「神威さんから電話ですね」
なのに、愁弥さんは電話に出ようとしない。
目をそらす。
手を伸ばせば取れる距離にあるのに。
あぁ、なるほど
貴方に悲しい顔をさせている元凶は彼なのですね。
なら、私は―…
「嫌なことを忘れさせてあげますよ」
もう、自分が抑えられなくなった。
ともだちにシェアしよう!