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狂愛Ⅲ《槞唯side》5
「終わ…りましたか?」
さすがにもうこれ以上は無理だと放心状態でいると、神威さんの動きが止まった。
あぁやっと終わったのか。
思い返すと地獄の時間だった。
感じてしまった自分が情けない。
「これくらいにしといてやる」
ふと時計を見ると深夜3時だった。
「はっ。4時間もヤッといて…どれだけ絶倫なんですかあなたは」
私は起き上がって眼鏡をかけてから神威さんを睨み付けた。
「舞台役者なめんなよ」
きちんと眼鏡をかけて彼を見ると、顔、体つき、声、全てにおいて色気があることを確信した。
ただし、大嫌いな人なのは変わらず。
「1ヶ月舞台の遠征で誰も抱いてなくて今日公演終わってそのままここに来たからな。1ヶ月禁欲。そりゃーたくさんヤれますわ」
大嫌いだ。
だから私を抱いたことを後悔させなくては。
「でもこれで神威さんの弱みが握れましたね」
「弱み?」
「神威さんが私を抱いたと愁弥さんに言ったらどうなるでしょうねぇ?」
私が愁弥さんにこの事実を言えば、神威さんは軽蔑されるだろう。
恋人以外を抱いたのだから。
「お前それ本気で言ってる?」
「ええ」
神威さんはため息をついて私を見た。
それも、余裕の表情で。
「俺がお前を抱いたことを愁弥に言ったところで、愁弥はお前に靡かない。むしろ俺がお前を抱いた事実を知って愁弥が傷つくだけだ」
私は神威さんが何を言い出しているのか理解出来なかった。
なぜこんなに自信に満ち溢れているのかも理解出来ない。
「自信過剰ですね。あなたが嫌われて別れる可能性だってあるのに」
純粋な愁弥さんが、こんなことをした貴方を許すとは限らないのに。
淡々と話し続ける姿に苛々する。
「どれだけお前が足掻いても、愁弥は俺から離れられない。俺も放さない」
そんなにも二人の絆は深いものなのか。
ならばなぜ愁弥さんを泣かせた?
悲しい顔をさせて、隙を作って。
原因は貴方だというのに。
「だからお前がこのことを愁弥に言ったら、ただ愁弥を傷つけるだけになるって本当は分かってるんだろ?」
あぁ、この人はただの遊び人じゃない。
相当頭がキレる人だ。
「愁弥が傷つくことなんてしたくないよな。ましてや、お前も共犯なら自分も軽蔑されるかもしれない。なら尚更このことを愁弥に言う価値は無い。違うか?」
「…」
この人には、勝てない―…
そう私の本能が語りかけてくる。
「愁弥のことが好きなお前がそんなこと言うはずないって俺は思ってるけど」
愁弥さんのことを知り尽くしている。
そして自分のことも。
入れる隙間が無い。
貴方達の間には、到底私は入れない。
「別に言ってもいいぜ。でも愁弥はお前のものにはならない。お前だってこの前愁弥を抱いて感じただろ。愁弥は手に入らないって」
私の勝ち目は無い。
この男を敵にした時点で負けなのだ。
「だとしたら、弱みを握られたのは俺じゃねぇよな?分かるだろ?お前頭いいもんな」
「…」
沈黙が続いた。
何も言い返せない。
「てかシャワー浴びてくるわー。着替えも貸して」
「図々しい」
「一緒に入る?」
「入るわけないでしょう」
神威さんは浴室へ向かっていった。
私はその場から動くことなく、先ほど言われたことを考え直していた。
やはり、どう考えても神威さんと愁弥さんを引き離す方法が思い浮かばない。
悔しい。
考え事をしていると、神威さんが浴室から出てきた。
「もう3時かー…寝てっていい?」
「帰ってください」
この人は…
よりによってその服を着るとは。
「お前も後半もうノリノリだったじゃん。俺も楽しかったぜ」
「黙ってください」
「つーかお前もシャワー浴びてこいよ。ぐっちゃぐちゃだから」
私は自分が乱れていることに気付いて、神威さんを睨み付けて無言でバスルームへ向かった。
あぁもう。
今日のことはもう忘れよう。
あんなに乱れたのも、あのローションのせいだ。
あれは私じゃない。
シャワーを浴びて浴室からリビングへ行くと、神威さんの姿は無かった。
「帰ったのか」
鍵を閉めようと玄関へ向かうと、勝手にドアが開いた。
「帰ったと思った?残念」
忘れようと思った人物が再び現れた。
「何か忘れ物ですか?鍵をかけようと思ったのですが…」
「ゆず蜂蜜のホット買ってきた。あと、のど飴」
神威さんはコンビニで買ってきたものを私に差し出した。
「お前、声枯れてるから使えよ」
「…!!…改めて嫌いですあなたのこと」
誰のせいで声が枯れたのか分かるだろう?という顔をしているのが腹立つ。
「おう。嫌いで上等。でも俺は愁弥のこと無ければ嫌いじゃないぜお前のこと」
私はこれ以上彼と話すとペースが崩れると思い、玄関の外に押し出して言った。
「もう二度とこないでください」
「ヤリたくなったらまた躾してやるから」
その余裕の笑みが余計に腹立つ。
「さようなら」
私は神威さんの目を見ることなくドアを閉めた。
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