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第2-1章~一人ぼっちの協奏曲(前)~

深い深い湖の底のような、光の射さない闇の奥から魂が浮き上がる様な気がした。 泡の様に揺らめきながらゆっくりと、意識が浮上するのと共に取り戻された知覚が身体全体へと広がってゆく。 それでも意識が戻るのを引き止めるように何かが拒む。 ―戻っちゃだめ―― 夏至の空気の様に、それは纏わり付き意識を再び闇の奥へと戻そうとする。 眠りに堕ちようとする心地良さを引き剥がし足掻くように瞼を開いた・・・―。 「―っっ!!」 瞳に飛び込んだ光の強さに目頭が痛む。 「トウキ君っ!」 何度も瞬きをするトウキを誰かが抱き締める。 黒に近い緑の髪と低い声。 ダツラがゆっくりと腕を放すと、心配そうにトウキの顔を覗く。 「僕の事分る?どこか痛む所は無い?」 反射的に彼の方に向き直ろうとしたトウキに鈍い痛みが身体中に走る。目を落とすとあちこちに包帯や治療の跡がある。 その瞬間に意識と記憶が完全に戻る。 ―あの時、ジギタリスに連れて行かれて、―お父様に会って、― ―それから――・・・・ 「デリスさんっ!!」 思わず声が消えた事も忘れ叫ぶ。 砕けた硝子の様な記憶を辿る。意識の奥底で彼の声を聞いた気がした。酷く悲しそうな彼の声を・・・。 唇を噛み震えそうになる身体を押さえダツラを見る。 彼は意を理解した様に一度視線を外すと口を開いた。 「君をここに運んで―、翌朝には荷物ごと姿が見えなかった。何所へ行ったか―。」 「―っ・・・・」 冷たい荊に捲きつかれた様な気がした。ベッドの上にいるのにそのまま奈落に引き落とされた様だ。 「っ・・・」 唇を噛み顔を歪ませても涙は零れない。 それでも自分から何かが壊れて落ちていく。 ―傍に居たいと願った ―消えないと誓った ―でも―― ―何も出来ない 彷徨う事も無く落ちた手の平から何かが零れる。 「・・・・」 拾い上げ両手の上に乗せたもの。 ―小さなペンダントヘッド― 金色の鍵の形をしている。 「・・・っ!」 そのまま両手で包み込み胸に抱き締める。 今直に彼の元に翔けて行きたい。 でも―傍に居ても苦しめるだけの存在なら―。 「兎に角・・・・今はもう少し休まないと・・・」 どうにかダツラがそれだけ声を押し出すと、トウキの肩にケープを掛け身形を整えてやる。 ―薬を作ってくるから。と言うダツラの声が遠くに聞こえた。ぼんやりと天井を見上げるが瞳は何も捉えていない。 ―天使のはずなのに。 どうしてこの手は傷付ける事しか出来ないのだろう。 差し伸べられた光を自分は無惨にも黒に染めた。 避けられて、見捨てられて当然だろう。 広がる闇に身を委ねるようにゆっくりと瞳を閉じた。

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