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第2-1章~一人ぼっちの協奏曲(中)~
沈んだ心と同じ様な纏わり付く重たい空気。ゆっくりと瞼を開く。
まだ夢の中に居るのかと錯覚する宵闇の世界がデリスを向かえる。いつの間にか眠りに陥っていたようだ。焚いていた筈の篝火:(かがりび)が消え燻:(く)すぶった煙を上げている。
あの日からよく眠れない日々を送っている。浅い眠りを繰り返し宛ても無く彷徨い以前の自分を取り戻せずにいた。
以前の自分?
それはいつの自分を指すのだろうか?
あの日から―
毎夜目を閉じ眠りに落ちる度に悪夢に蝕まれ贖罪の痛みを味わう。
それでも―
悪夢の炎は不意に生まれた小さな熱に溶かされて行く。
頬を伝う熱。
柔らかな微笑みが在りし日の罪から開放してゆくようで、自分にはもうそんな日は来ないのに。
いっそあの人のように憎んでくれれば良いのに。
夢の中で微笑みかけるその子はデリスを光の下へと導こうとする。
自分には眩しすぎるその光は仕舞い込んだ記憶まで届きそうで、怯える様にその熱からも逃げ出してしまう。
どうかもう赦さないで欲しい―
俺にはもう自分を呪う事しか出来ないから―。
思いを振り解く様に夜明け前に輝く星空を仰いだ。
ポットから溢れ出る湯気をダツラはぼんやりと眺めていた。
トウキ用に調合した薬に麦芽で出来た飴を溶かし入れると薬草の独特の匂いから柔らかな甘い匂いへと変わっていく。
「はぁ・・・・」
誰に聞かせる訳でも無くダツラは大きな溜息を吐く。
―何も云えなかった。
目を覚ましたのなら、どんな言葉を掛けようか。何をしようか。
考えていた全てを現実は意図も簡単に否定した。
こんな時にどうすれば良いのか。何処を探しても何を見ても答えは在りはしない。
探し出せないのは自分がヒトで無いから?
「こんなの―」
望んでなんかいない。
トウキを自分に託して消えた男の事を思い出し壁を拳で叩く。
おおよそ彼らしくない行動とジャケットに仕舞われた電話が鳴るのはほぼ同時だった。
「はいはい・・・・」
気だるそうに電話を取ると相手も確かめずに応対する。
その気になれば電話も機能の一つとして自身に取り入れられるのだが何となく「カッコ悪い」と言う理由で外部機能にしている。
「あれ?そうだっけ?」
内容を聞きながらダツラは再び気だるそうに答える。受話器から聞こえて来る辛辣な言葉も今はダツラに届いていない。
「あぁ、そうだね。場所は―・・・・」
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