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新年のご挨拶編 3 キスマーク
明日の出張は丸一日費やすことになるとスケジュールと伺っていた。朝早くに移動して、向こうで打ち合わせと現地視察があるらしくて、全ての予定が終わるのが夜。でもそこから接待があって、夜のうちにこちらへ戻るのは難しいだろうとすでにホテルは取ってある。そして帰ってくる当日も、せっかくはるばる出張で地方に行くのだからと、名刺を配ってから帰るって言っていた。帰宅は夜。そして出張を終えたら休日を挟むこともなく庁舎のほうでお仕事。
僕がその、成徳さんが戻ってきた日から、先生に同行して地方への視察の予定が入っている。一泊二日。それが終わると、今度はまた成徳さんが地方の講演会と、専門家の方々の調査に同行があったりで不在で。会えてもゆっくりできそうなスケジュールじゃなくて。
次に二人でゆっくりできるのは、年末年始。
次に、こうして――。
「あっ……あぁっ」
成徳さんと、する、のはクリスマスの後になってしまう。
「あっ……ン」
首筋にチリリと小さな刺激が走った。ベッドの上で覆い被さる成徳さんにしがみつくと、まだ乾かしたてで柔らかい髪から同じシャンプーの香りがする。
「ん」
きっと、成徳さんのキスの痕がそこに。
「佳祐、大丈夫。そこ見えないところだから」
ちゃんと、付けてもらえたかなって、無意識に指で触れると、そう、優しくて、甘い声が教えてくれる。
違うんです。
見えてしまうかと心配したのではなくて、もらえた印は数日で消えてしまうのかと、残念で触れてみたんです。この辺りかなって。あとで鏡で見てみたいから。
「あの、成徳さん」
「?」
だって、その印がある間は、そこに成徳さんの唇が触れてくれたって、あとで、貴方が出張やお仕事でお忙しくて顔を見られない間は何度も指でなぞって愛でるから。
「僕、口でします、ので」
お互いがとても忙しい仕事に従事しているのは充分に理解している。お仕事、頑張って欲しいってすごく思っているし応援している。
最初の頃は本当に平気だったのに。
一緒に暮らしていて、同じ場所に帰ってくるのだから同じベッドで眠っていると言うだけでも、嬉しかったのに。
「佳祐……」
恋と言うのは、欲張りだ。
「ぁ……ん、む」
前は貴方に好かれているだけで嬉しかったのに。
前は、満足できていたのに。
「ん、ン」
「佳祐」
成徳さんはその脚の間にうずくまる僕の頭をそっと撫でてくれた。
それが嬉しくて、口いっぱいに成徳さんを頬張ると、そのままたっぷり丁寧に唇で扱いていく。
「っ」
口から一度離してから、ちゅぅって、その側面にキスをすると、ぴくんって反応してくれた成徳さんのが、僕の鼻先をペチンと撫でた。
それからまた口いっぱいに成徳さんを咥えて。
「佳祐」
「っん、ん」
その指先はまるで魔法のようだ。肌に触れてもらえるだけで、頭を撫でてもらえるだけで、こんなに幸せになれる。
「佳祐」
「あ……」
まだ、撫でて欲しいのに。口でいっぱいしてあげて、撫でてもらいたかったのに。
「あぁっ……ん」
その手が僕の腰を掴んで引き寄せ、その膝の上に跨るように座らされた。目が合うと、ドキドキしてしまうのは変わらないのに、身体の奥は前よりずっと、成徳さんのことを欲しがるようになっていて。
「あっ」
魔法のような指先が僕のそこを撫でてくれただけで、孔がきゅんって。
その孔を指がくるくると円を描くように撫でてから、クプリと中へ侵入してきた。
「あぁぁっ」
長い指が僕のお腹の中をまさぐって。
「ンンっ」
その指に中を仕立ててもらうのがたまらなく心地良くて、もうこのままイッてしまいそう。長い指に、広げてもらえてるだけで、もう。
「成徳さん」
奥まで欲しくて。その奥まで届くことのできる成徳さんの先端を掌で撫でると、眉を寄せて、呼吸を乱してくれる。
「あ、入っ」
あてがわれた切先で仕立てたばかりの孔をさっき指でされたみたいに、くるくると焦らすように撫でてから。
「あ、ぁ……あぁぁぁぁぁ」
一気に、奥まで侵入してきた。抉じ開けられるだけで、もう。
「挿入だけで中イッてる」
「あ、だって……成徳さんの、すごく」
「すごく?」
腰を大きな手がぎゅっと掴んで、快感を逃さないようにしてしまう。深くまでしっかり沈んだ大きいのが、まだ達してキュって締め詰めたままの僕の奥をクンって小さく突いてきて。
「あっ……」
「佳祐」
トントンってされると、おかしくなってしまう。
「あ、待っ、成徳さんの、おっき、い」
「初めの頃は、まだ」
「?」
「なんでもないよ」
「あぁっ」
「明日、佳祐は少し遅いんだっけ?」
「は、ぃ」
明日は演説会の会場にそのまま直接行くことになっていた。先生が朝、今、妊婦さんとなった娘さんをご自身で病院まで送りたいからって。だから、朝が少し遅くて、でも、成徳さんは早いから。
「じゃあ、今日は」
早いから。
「少し、付き合って」
「あっ」
深いとこ、に、来ちゃう。
「佳祐」
「あぁっ、そこっ、はっ」
そして、中がまたぎゅううって彼にしがみついて、腕でも、彼にぎゅってしがみついて。
「佳祐」
名前を呼んでくれるその唇にも、ぎゅって。
「あ、イクっ」
しがみついた。
たくさん抱きしめてもらった翌朝、すごく早い時間に成徳さんは出発してしまった。僕は寝てしまっていて、見送りできなくて。
「……あ」
起こしてくださいって寝る前に言っておけばよかった。
ベッドのサイドテーブルに、「行ってきます」ってとても綺麗な字でメモが残っていた。
それから、首筋にはいつもよりも色濃くついている気がする成徳さんの唇の痕がくっきりと残っていた。
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