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セクシーメリークリスマス編 8 メロメロメリークリスマス

「あ……ン」  成徳さんが抜けていく瞬間にすら、甘い声が自然と零れ落ちてしまう。 「ン……」  すごい、成徳さん、たくさん汗、かいてる。その汗で濡れた前髪を邪魔そうにかき上げて、眉をキュッと眉間に寄せる仕草とか表情に心臓がトクトク忙しなく踊ってしまう。  そして、その手が僕の火照ってきっと真っ赤だろう頬を撫でてくれた。 「平気? 佳祐」 「あ、は……ぃ」  指、優しくてくすぐったいです。  ついさっき、僕の奥までいっぱいに貫こうと力強く捕まえてくれた指先が、触れるか触れないか、そのくらいにやんわりと撫でてくれると、胸の辺りがキュッと締め付けらてしまうんです。  それに、そんなに優しく微笑まれると、照れてしまう。  いつもそう。  成徳さんとこうして抱き合った後はくすぐったくて、甘くて、恋しくて、じっとしてるのが難しくなるんです。  けれど、今日の成徳さんはクリスマスバージョンだから。  なんだか。  ――佳祐。  すごかった、です。  ――まだ、ダメ。もう一回。  すごく、すごかった、です。  ――佳祐、っ。  成徳さんが僕の中で達する瞬間の、なんとも言えない、なんというか胸が締め付けられるくらいにドキドキする表情も、強さも激しさも、避妊具しているのに熱くて、溶けちゃいそうな体温も、すごくて。  まだ、夢見心地です。 「顔真っ赤……無理させた」 「全然、です」 「にしても……なんで急に、これ思いついたの」  言いながら、成徳さんが僕の腰を撫でてくれた。まだ、しているような感覚がすごく残ってる肌はヒリヒリしてしまいそうなくらいに敏感で、その指先一つでも、甘い声が溢れそう。 「え、あ……」  たくさん、興奮してくれたのかな。 「えっと、その、でも、よかったですか? 僕」 「そりゃ」 「僕じゃ、その、あまりセクシーにはならなかったので。その男、なので。僕小さいほうだし、成徳さんみたいにかっこいい身体をしているわけでもないですけど、かといって女性らしいラインが出せるわけもなく」  宝石のようなランジェリー。  繊細で美麗なフリルとレースでボディラインを。  けれど、僕には女性特有の美しい曲線は出ない、でしょう? だから、どうなのでしょうって、身につけた時、とても心配で。 「だから、さっき……」  僕、身につけて失敗したって思いました。そう言おうと思ったけれど、成徳さんがまだ足にも腕にも力が入らない僕の上に覆い被さって、額に額をくっつけた。 「あ、の……」 「わかってないなぁ」 「?」 「女性もののランジェリーに興奮したんじゃないんだよ」  そう、なんですか? 「佳祐がそこまでして、俺のこと誘惑しようとしてんのが可愛い」  だって。 「スーツ姿でも可愛い佳祐が、あんな格好して、もう一つプレゼントがあるんですって言ってんの」  僕、成徳さんのこと。 「そんなの、恋人がしたらたまらないでしょ。普通」  メロメロにしたいんです。 「わかった?」  ふにゃりと成徳さんが笑ってくれた。いつもの、例えば、一緒にテレビを見ている時や、買い物に出かけた時、食器を洗ってる時、それから、行為に耽っている最中に、僕がしがみつくと「気持ちいい?」って訊いてくれる時にしてくれる、優しくて、あったかくて、胸がキュってする笑顔。  ―― 蒲田さんのセクシーな格好とか見たら、もうダメかもね。デレデレで。  僕はあまりセクシーにはならなかったと思います。でも。  ――なんていやらしい下着なんだ、ハニー。  とは言わなかったですけれど。  ――ムラムラが止まらないじゃないか、ハニー。  とも、言われなかったですけれど。 「ふふ」 「ほら、佳祐、首につかまって」 「あ」 「風呂、入りに連れていくから。つーか、明日も仕事なのに羽目外した。明日、しんどかったらごめん」 「平気ですっ」  いつものように微笑んで抱き締めてくださいました。優しく丁寧に僕のことをお風呂場まで連れて行ってくださいました。  だから、多分、僕ってば。 「ふふ」 「こら、あんましがみつくな」 「ふふっ」 「また襲われるぞ」 「はい」 「はいじゃないでしょ。いい返事してる場合じゃないから」 「はいっ」  いつもすごくとっても。 「ほら、到着」  溺愛されているんじゃないかと、思うんです。 「素敵なクリスマスを過ごせたようだね」  先生がにっこりと微笑むと、ワインレッドのマフラーを首からそっと、そーっと外した。普段の先生なら選ばないようなカラー。そして、まるで宝物みたいに優しく丁寧に、折りたたむ感じ。 「ぁ、そちらは」 「実は、昨日娘がくれてね。とてもあったかい」 「すごく素敵です」  こちらもつられて笑ってしまうくらい、嬉しそうにそのマフラーを先生が見つめていた。 「あ、僕、ちょっと備品整理してきます」 「悪いね。助かるよ」  スタッフである秘書は女性が多く、力仕事は基本的に僕が行うようにしてる。 「いえ、とんでもないです」  僕なら、背の高い棚から物を取るのに背伸びをしたところで、ヒールの靴でよろけて、転んでしまうこともないし。  頑丈だから、荷物だっていくらでも。 「よ……いっしょ」  いくらでも下ろしたら、しまったりできてしまうし。 「よっ」  ちょっと高いところだった。もう年末、あと少ししたら冬休みで、今年は成徳さんも電気工事の付添しなくていいから、二人でゆっくり過ごせるし。だから、休日返上でお仕事しなくて済むように、頑張らないとって、手を伸ばしたところだった。 「取るの? しまうの?」 「!」  低い声。  けれど、ちっとも怖くない優しい声。 「しまうのね」 「ぁ……」  僕の大好きな人の声。 「成徳さん、どうして」 「んー、今日はちょっと用事があって、だから様子見。昨日無理させたから。やっぱ見に来て正解」  無理なんてしてないです。僕はたくさんできてとても嬉しかったんです。 「今日は、帰り遅くなりそうか?」 「あ、多分」 「じゃあ、俺が飯作っとく」 「あ、でも」 「佳祐にさせると、また椎茸料理出されそうだから」 「!」  そこでニヤリと笑ってくださる。 「あとは? 何か手伝えるか? して欲しいことあれば、手伝うよ」 「あ、えっと……それでは」  その笑顔が愛しくてたまらないです。 「こちらへ……」  僕は貴方にメロメロなので。 「……」  ヒールを履かない僕は、よろけることなく背伸びをした。  そして、メロメロでたまらない恋人にそっと、そーっと、キスをした。 「……ふふ」  僕の方こそメロメロですと、キスをした。

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