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宇宙人襲来!
「え?編入ですか?」
始業式から早1ヶ月。
少し肌寒かった日はもう完全に暖かくなり、窓から見える青い木々が夏が近づいていることを伝えていた。5月1日の今日は、全授業免除という生徒会が唯一授業に参加する日。
基本的には授業の進度を確認するためだったり、溜まっていたテストなどを受けるためだ。毎日の授業に参加していないが毎回学年1位〜6位までを独占しているのは紛れもない生徒会だ。それは十神家はすでに幼い頃から厳しい教育を受けているため、すでに高等部の授業内容は全員理解している。
しかし単位を取らなくてはならないのと、先生方の独自のテストを受け成績に反映するために月一で授業に参加するのだ。今日がその日。流石に全員が丸一日いなくなる訳にはいかないので、交代で一コマだけ参加しに行くのだ。
「あぁ、しかも編入テスト満点だと。ランダムで専門知識を問うもので、俺でも取れるか分からん内容のテストを聞いたこともない奴がやってのけた……相手は宇宙人かなんかか?」
学校が始まる前に少しでも残った仕事を片付けようと生徒会室に来ていた皆様。生徒会のポストに入れられていた理事長代理からの文書に皆、開いた口が塞がらない。
「ちょっと待ってよ奏、何で今?何でポストにそんな個人情報だらけの書類が入っていたわけ?」
そんな中口火を切ったのは蓮様。
「そんなこと俺に分かるか。あの代理、勝手に受理しやがって」
通常、編入などの重要書類は個人情報が含まれていることが多い為に誰かが必ず相手の元まで手渡しする決まりだ。特にこの学園では重役の子息が多いので尚更気をつけなければならない。
「奏、貸して。……えっと、一ノ瀬宇理(イチノセ ウリ)16歳、バース性はβで編入テスト全教科満点。え、一ノ瀬ってあの代理と同じ名字?まさか……」
「そのまさかだ。あの代理の甥だと。……十中八九裏口入学だな。しかもその手引きをしたのは仮にも理事長代理、か。父さんに報告だな」
編入テスト満点の時点でそんな予感はしていたけれど、嫌な予感は当たるもの。始業式が終わってから一週間後に理事長代理との顔合わせがあった。でっぷりとした腹、脂ののった顔、人を舌で舐めるように見てきて正直、嫌悪感しかわかない人だった。それは皆様同じだったようで、奏様は特に眉間に皺を寄せてほぼ睨んでいる状態。一度だけ目が合ったのだが、値踏みをされているような目で気持ち悪くて仕方がなかった。奏様が代理が私を見ているのに気づき、前に出てくれてとてもホッとしたのを今でも覚えている。
「でも、また代理を探すのって時間かかるんじゃないの?」
「今日来るらしいな、今更追い返せないだろう?」
夏様と秋様が一番の問題を口ににする。確かに、理事長代理を立てることは面倒な書類を揃えなければならないし代わりの人材を探すのだって一苦労だ。
「奏様、御父上へのご報告は私がしておきます。他に代理ができる者にお心当たりはありますか?」
「それは父さんに用意させる。取り敢えず、今だけは生徒として受け入れ、今の代理を潰してから追い出しても何ら問題はないだろう。澪、お前と同じクラスだそうだからなついでですまないが迎えに行って案内してやれ、素人が遭難して死なれても困る」
この学園はとんでもなく広いため、素人が入ると遭難しがちなのだ。幸い、私は一コマ目を受ける予定なのでついでならば良いだろう。
「畏まりました、ではお先に失礼します」
生徒会室を出て、そのまま門へ向かった。
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靴箱から暫く歩くと私の倍はあろうかという大きさの門が現れる。その鉄製の門も金色で細やかな細工が施され、周りには青々しい木々が生い茂っている。勿論、学園お抱えの庭師が何人もいる為に雑草が生えている場所はない。奏様から誕生日に頂いた腕時計を見ると、後30分程でSHRが始まる時間だった。書類には今ぐらいに門で待ち合わせていると付箋が貼られていたのでそろそろだろう。
「危ないーー!」
突然上から声がした。何事か、と上を向くと人が落ちてきている……!
「は、え!?」
取り敢えずそのままだと下敷きになりそうだったし、受け止めきれる自信もなかったため右に身体をずらした。その瞬間、降ってきた人はすぐ側で華麗な着地を決めた。
「おい!お前、避けるなんてひどいぞ!受け止めろよ!」
勢いよく顔を上げたその人は絶対カツラだろと言いたくなるくらい不格好で、スチールウールの様な髪の毛に本当に見えているのか疑いたくなるくらいの瓶底眼鏡をかけていた。私よりも身長は小さく小柄ではあるものの、耳に響く大きな声が特徴的な人。
「受け止めるのは無理でしたので、避けさせていただきました。その分には申し訳ございません」
こういう人は自分に非がなくても今謝っておかなければ後が面倒だという事を知っているので、上辺だけでも謝っておく。
「おう!謝ったから許してやるぞ!友達だからな!お前、名前教えろよ!」
いちいち声の大きい方ですね。すぐそばにいるのだから、そんなに大きな声で話さなくても聞こえるだろうに。まるで幼稚園児と話している感覚だ。
「失礼しました。私、生徒会副会長をしております宝生澪と申します、以後お見知りおきを。これから職員室にご案内させていただきますので、私に付いてきてください」
「お前、澪って言うのか!よろしくな!俺、宇理!宇理って呼べよな!」
初対面の相手にここまで言えるとは、なかなか図太い人だ。
「澪、お前作り笑いなんて辞めろよ!」
はて、私がいつ笑ったというのでしょう?親衛隊長さんには無表情でも素敵!と結構好評だったし、もともと親しい人以外であまり笑わない性格だったので特にこの表情を気にしたことはなかった。初対面だからとやった愛想笑いがそう見えたのだろう。
「では宇理さん。私のことはお気になさらず、さぁ早く行きますよ。久しぶりの授業に遅れるのは勘弁です」
「宇理でいいぞ!なぁなぁ、澪は何か好きなもの有るのか!?」
いちいち大きい声に朝からうんざりしながら適当に答えておいた。以前同じような質問に純粋に応えたことがある。その時は大量のプレゼントと称した荷物が家に届き、処理に困った経験をし、中には良く分からない薬とともに送られてきたものもあった。以来、真面目に答えるなと奏様から言いつけられている。
この転校生、期間が短いとはいえ問題を起こしそうな感じがしてやまない。先程来た道をやたら煩い問題児と一緒に引き返していった。
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「そっか!澪は犬がすきなん「着きましたよ、今担任の先生をお呼びしますね」」
道中、あまりに煩いので途中から返事も曖昧になり、遂には被せて話してしまった。早く離れたくて少し早歩きになってしまったのは少しだけ苦手意識を感じたからか。おかげで耳は痛いし、頭も重いとなかなか重症だ。時間がとても長く感じたが、ようやく職員室につき、音もなくドアをスライドさせる。
これが一学校の職員室とは言い難い高級感溢れる一室がそこには広がっていて、一番手前の席に私のクラスの担任がいた。
「藤崎先生、転校生をお連れ致しました」
2年Sクラス担任の藤崎 晶〈ブシサキ アキラ〉先生。どこぞのホストと言わんばかりの派手に染めた金髪と白スーツに黒シャツ、ピアスなんかのアクセサリーをじゃらじゃらと付けている。口癖は〘ダルい〙なのだけれど、仕事は卒なくこなすこの学園の優秀な数学教師。
「なぁ澪!俺の話ちゃんと聞けよ!友達だろ!酷い事するなよな!」
いつ友達になったのか良く分からないが、この私ですら心底うざいと思ってしまう。
「俺のことちゃんと苗字と先生付きで呼んでくれるのは………宝生か……あぁ?なんだこのまりもみたいな奴は。しかもうるせーし……なんかだるい気がしてきた」
大きな欠伸をしながら出できた先生は私よりも頭半分くらい背が高く、明るい茶色の目、ハッキリとした顔立ちからやっぱりイケメンという部類に入る人なのでしょう。
「後でお話は伺いますから、煩いので今は黙って下さい。それと声が大きすぎます、この距離ならあと七割減でも聞こえますので。藤崎先生、私は先に教室へ向かいますので宜しくお願い致します」「………このまりも、あの無表情でも人当たりが良すぎて会長様にいつも心配されている宝生にここまで言わせるなんて…何したんだ?」
どれだけ注意してもまだ直らない大声のせいで、先生が何を言っているのか聞こえなかったが、一刻も早くこの場から離れたくて堪らなかった。あの気味が悪い理事長代理があれなら甥は甥か。
まったく、本当に面倒なことになりそうです。
「あ、澪!どこ行くんだよ!?俺も連れてけよ!」
「おい転校生、お前はこっちで書類にサインだ。宝生を追いかけようとするな、命が惜しいならな。宝生にちょっかいかけて、あの会長に睨まれても俺は助けないぞ」
「なんだよお前!名前なんて言うんだ!?俺は宇理!宇理って呼べよな!」
「はいはい、一ノ瀬な。俺は藤崎晶、お前の担任だ。………しっかしうるせぇな…だりぃ」
聞こえないように悪態をつく。
「晶だな!早く澪の所いくぞ!あと一ノ瀬じゃなくて宇理って呼べよな!友達なんだから!」
もうダルくなって、返事もしなくなった。取り敢えず、会長様には報告だな。あの宝生澪に厄介事が起きそうだ、と。大切な大切な、王様の姫に何かあっては学園中が荒れかねない。そうしてやっぱり煩いまりもを適当にあしらいながら時間が来るまで、宝生の元へ走ろうとするのを押さえつけた。
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あの煩い毛玉から早々に逃げ、行く先は2-Sの教室。足の沈むようなフカフカの赤い絨毯を歩き、職員棟から普通棟に入ると沢山の生徒がいる。今いる2階は2年用のフロアで、クラスが順にS、A、B、C、D、E、Fと並んでいる。中でもSクラスは家柄、成績共に素晴らしい生徒が集まるエリートクラス。クラスは家柄や成績で分けられるが、成績優秀であれば家柄がそこそこでもSクラスに入ることは十分に可能だ。
「あ!副会長様!」
一人の生徒が私に気づくと、周りの生徒が一斉にこちらを向く。1年経っても尚、あまり好きではない大量の視線に少しだけみを固くする。
「「「「「おはようございます!!」」」」」」
「おはようございます、皆様」
第一声から間髪入れず大勢の生徒が挨拶をしてくれて、すぐに周りに人の壁ができてしまった。
「副会長様!今月のお料理教室ってありますか?」
しかし、進む道を阻むような事はなく一定の距離を保ちながら次々に飛んでくる質問にいつもの様に答えていく。
「小宮さん、今月は新入生歓迎会があるので月末にやりましょうか。調理室を押えておいてくださいね」
お料理教室は奏様に料理をお出ししていることがいつの間にか何故か知れ渡り、その話を聞いた親衛隊の1人が恋人に料理を作りたいので教えて欲しいと言い出したのが発端だ。私の料理好きとその子の健気な思いに心打たれた私は、奏様に許可をとり月2回程度の頻度で料理教室という名の交流会を行っている。
本来であればお茶会があるため、生徒会として頻繁に抜ける訳には行かないのだが、奏様が許可をくださったことである程度自由に時間を使えるようになったのも事実。親衛隊の人数が多いのだから交流を深めてこい、そう言われたのだから頑張って交流を持とうと思った。
「副会長様、お荷物お持ちします!」
「いえ、俺が持ちます!」
「浜松さん、赤星さん、ありがとうございます。これくらいは大丈夫ですよ。また、お手伝いしてほしいときは呼びますね」
「副会長様、今日もお美しいです…!」
「いえいえ、古屋さんのほうが可愛いですよ。それより風邪をひいていたようですが、もう大丈夫ですか?」
「覚えててくださったんですね……!」
「それは勿論、貴方は私の大事な親衛隊員ですからね」
そうこうしている内に、教室についた。
「皆さん、SHRがもうすぐ始まりますよ。教室へお戻りください」
まだ周りには沢山の人がいて、特にクラス内で触れ合えるSクラスとは違ってAクラスからの生徒が多い。奏様がチワワと呼んだ身長の小さな生徒は皆、クリクリとした大きな目いっぱいに涙を貯めて捨てられた子犬のような目で見つめてくる。蓮様がドーベルマンと呼んだ通称番犬部隊はまるで尻尾が垂れて、心なしか耳まで垂れているように見える。
「もう行っちゃうんですか………」
「大事な時間ですからね、また会えますよ」
Sクラス以外の生徒がSクラスの教室で過ごすことはダメではないが時間も時間なのであまり宜しいとは言えない。
「……近々お茶会を開きましょうか、そこで皆さんと私も沢山お話がしたいです」
なかなか離れない生徒に罪悪感を感じ、お茶会を開くことにした。お茶会とは生徒会が親衛隊の過激化を抑える為に、もっと生徒会との触れ合いの場を設けようと、誰だったか普段士?という方が提案してくれたものだ。私は料理教室も兼ねているため、月4回ほど一般生徒との交流を持つことが出来ているのだ。幸い、皆様は親衛隊を好意的に見てくれているので、不定期開催のお茶会は大人気である。
私自身、奏様のお側を長く離れる訳にはいかずたまにしか開いていなかった。久しぶりということもあり、少しだけなら奏様も許してくれるだろうと思い微笑んで言った。どうしたのですか、皆さんそんな所に蹲って」
すると周りにいた生徒が、お腹を抱えて蹲ってしまった。
「「「お気になさらず!」」」
「お茶会のお話しは後日詳しく伺いますので!」
どこからともなく現れた親衛隊の人が蹲った生徒を回収していき、言質を取ったとばかりにお茶会の事を言い残して去って行った。
「う?」
よく分からないが、気にしないのが一番だろう。漸く教室に入ると、次はSクラスの生徒が周りに壁を作った。
「副会長様、おはようございます!今日は1限なんですね!」
「ええ、今日も1コマだけですけど宜しくお願い致します」「もちろんです!」
なんとか一番後ろの窓側の席に座り、他生徒と話をしているとすぐに始まりのベルが鳴る。
「てめぇ等ベルは鳴ってんだよ、席につけ。さもなくば数学の単位おとすぞ」
ちょうど不吉な宣言とともに入ってきたのはホスト風教師の藤崎先生。いつもの事なのだろう、あれ程周りに集まっていた生徒が蜘蛛の子を散らすように席へ戻って行った。
「連絡の前に……おい藻部谷、お前宝生の前に行け」
「アッキー先生様、俺は藻部谷ではなく有坂です……さり気なくモブにするは辞めていただきたい」
私の席の前と右側は空席で、生徒会が授業に参加するために用意された席だ。いつも奥の方に座っているが、それは隣に生徒がいると物凄い鼻息で授業に集中できないからだと言う事はそっと胸にしまっておこう。
「おら、無駄にキリッとしてねぇで早くしろ」
「訂正はしてくれないんですね!?……まぁ、これで王道との絡みを!間近で見れる……かもしれない」
「そこの、藻部谷もだ。お前は隣だ」
「僕は藻部谷じゃなくて、葉月ですぅ……うぅ、名前が分からないからって藻部谷を増やさないでくださいぃぃ……」
「すまなかったな、移動が済んだら連絡始めるぞ」
急に廊下側一番前の生徒を移動させたアッキーこと藤崎先生の意図は分からないが、二人の生徒に謝る気持ちが全くないのは分かった。
気の弱そうな葉月という生徒は涙目になりながら机の中身だけを持って移動してきて、もう一人の有坂という生徒はすでに移動していて何かをブツブツと呟きながら、私を見てとてもいい笑顔で親指を立てていた。
「っ!」
少しだけその笑顔が捕食者に見えて怖かったのは言わないでおこう。
「いいなぁ……アッキー、何で移動させたの?席替えなら皆でやろうよー!」
一人の生徒が私を見て言った。「席替えの為に移動したんじゃねぇよ。今から分かるから、お前らイイ子に待っとけ」
ニヤリと不敵に笑う先生は、それはそれは悪人顔でした(有坂談)
「「「はーーーい!」」」
不満そうにしながらも、可愛く手を上げて返事をしたチワワ達。少しだけ癒やされた。
「んじゃ、連絡な……俺からは特に無いが、転校生が来ている」
無いんかい!という有坂さんのツッコミを気にせずあの煩い毛玉について言ってきた。
「転校生!?イケメンかなぁー?」
「はぁ?可愛いのがいいだろう」
「でも、なんで今?」
普通、編入はテストも簡単な学期の変わり目にあるので、学期が始まってからの編入は大変珍しいもの。
「詳しい事は知らねぇが……あって数分であれはヤバイ感じがするから、一応生徒会とは離れた所に置く」
「そんなにヤバイ奴なのにSクラス?」
「編入試験満点だと……成績優秀者としてのSクラスだ」
「あの編入試験を満点って……天才ってこと?」
「どっちのヤバいやつなのかな、宝生様が心配……」
「大神様が守ってくださるから大丈夫だよ!」
「お前ら静かにしろ、授業時間が減れば迷惑なのは生徒会だぞ」
正直、二人が近くに来てくれる前の状況なら座る場所は必然的に私のすぐそばだっただろうが、先生も毛玉のおかしさに気づいたのだろう。何かと絶大な人気で厄介事に巻き込まれやすい生徒会は、突拍子も無い事で被害を受けたりする。奏様達と違い、私にはそんな魅力はないが、生徒会と言うだけで目立つことになる私なので、それとない先生の配慮に心底ホッとした。
「……まぁ、どんなヤバい奴なのかは見ればわかるだろ…一ノ瀬、入ってこい」
「晶!!呼ぶのが遅すぎるぞ!後俺の事は宇理って呼べよな!友達なんだから!!」
スパンっ、と普段なら音もないスライドドアを軋むほど乱暴に開け入って来たのは、あれ程注意したにも関わらず全く変わっていない大声の毛玉。
「えっ………なに?このまりも……」
「友達……?晶?」
初めて見る毛玉にポカンとする皆。いきなり担任と友達宣言をし、乱暴な姿に心底驚いているようだった。
「はぁ……一ノ瀬、あれ程注意しただろうが。なんでさっき会ったばっかのお前と友達にならなきゃいけないんだ?」
面倒くさそうに言った先生に皆が正気を取り戻した。
「はぁ?なにこの毛玉、アッキー先生のことなんで呼び捨てなわけ?うるさいし!」
「ブサイク!なんでここに来たの〜?」
「生意気!!友達とか冗談でしょ?!」
インパクトの強すぎる転校生に非難が殺到する。そんな中、前に来た有坂さんだけは何故かガッツポーズをしていたが、有坂さんも編入生なので編入仲間が増えて嬉しいのだろうか。
「俺は、一ノ瀬宇理!宇理って呼べよな!!晶は名前教えてくれたから友達なんだぞ!」
「何それ、頭おかしいんじゃない?」
「バカみたーい!名前教えたら友達っておかしいんじゃない?」
「馴れ馴れしい奴!やっぱりとんでもない方のヤバいやつじゃん!」
「生徒会に近づけちゃダメだ!」
「見た目もキモイ、チビだし、発言はヤバいし、最低」
あまりの横暴さに皆の不満が止まらない。
「お前ら辞めろ、こんなのいちいち相手にしてたら頭なんていくつあっても足りないし、だりぃだろ」
漸く大きなため息をついた先生からストップがかかるが、先生も生徒の間では人気の部類に入るので、そんな先生を名前呼びさせているのがよほど気に入らないのだろう、文句が止まらない。あの毛玉に自分がここにいるとバレればかなり面倒なことになりそうだったので気配を消していたのだが、このままでは授業を受けられなくなりそうだ。
「一ノ瀬、お前はそこの廊下側一番前の席だ。さっさと座れ、迷惑だ」
「なんで俺にそんなこと言うんだよ!?友達なんだから優しくしろよ!」
「だから、俺達は教師と生徒であって友達じゃねぇんだよ!」
「名前教えたんだから友達だろ!?パパはそう言ってた!」
「お前のパパなんて聞いたこともねぇよ!」
「酷いぞ晶!俺のパパはすごい人なんだからな!」
いまだ続く攻防にため息をつきながら、席を立つ。
「藤崎先生、皆さん、落ち着きましょうか。…………宇理さん、先生は大人であって私達の担任です。決して対等な存在ではありません。これから、友達発言は止めるように」
私が手を叩く乾いた音とともに言葉を発した瞬間、ざわついていた教室が一気に静かになる。
「あと、皆さんも一応はクラスメイトになるのですから適当に受け流せばいいでしょう?」
あの毛玉でさえ黙る。
澪自身は気づいていない、すべてを引きつける雰囲気に皆が見惚れ、押し黙った。
「仮にも、将来上に立つ人になるのですからそれくらいは出来ていないといけませんよ……もうこの件は終わりにしましょう」
しかし、空気を読まない…いや、読めないのが王道の転校生である。
「澪!同じクラスだったのか!!宇理って呼べってば!親友だろ!晶、俺、澪の隣に座る!」
「あー……駄目に決まってんだろ、席は空いてるとこだ。言う事が聞けないなら、出ていけ」
全く話を聞いていない様子の毛玉に、軽く頭痛を覚えながら再度ため息をついてしまう。私の隣に座ると必死な毛玉に寒気を覚えた。
「藤崎先生、宇理さん、今日は初日なので一番前がいいかと思います。明日からなら、友人もできると思いますしここの席でもいいのではないでしょうか?」
なんとしてもあの毛玉に近寄りたくなくて、今日の安全を死守する為に私が今日だけしか授業に参加しないのを知らない事を利用して、先生に目配せしながら相談を持ちかける。
「あぁ…その方がいいだろうな。一ノ瀬、宝生の親切心だ、有り難く受け取っておかないと宝生が悲しむぞ」
すぐに気づいたらしい先生が、思わせぶりな言葉で誘導していく。他の生徒も心無しかニヤニヤしているように見える。
「澪が言うなら、そうする!明日は隣に座らせろよな!」
納得したように大人しく前の席に座ってくれた。これで今日、生徒会に授業中迷惑をかけることはないだろう。
「朝からだりぃな……SHRは終わりだ、このまま授業をやるぞー……宝生は他の先生から預かってるもんが有るから、受け取りに来い」
「はい、ありがとうございます」
荒れた朝にどっと疲れながら、溜まったプリントやテストをサクサクと片付けていった。あの毛玉は寛大な奏様でも無理だろう。
そして恐らく、奏様に惚れる。
あの特別希少種な+αで、見た目麗しく、すべての人が思わず跪くようなカリスマ性を持ったお方。会った人は大体が恋に落ちる。
幸い、奏様の参加は午後の1コマなのでそれまでにどうにか遠ざけなければならない。私の仕事は奏様が不自由なく過ごせるように周りの環境を整えること。奏様が歩く道の石ころをどんな小さい物でも取り除く。
「後、2年……」
首に付けている、Ωの印を擦る。奏様が中等部に入る前にくれた、噛み付き防止の硬い首輪は長時間つけていても痛くならず、デザインも黒地に金の刺繍により上品さが溢れている。ただでさえ少ない時間を、毛玉なんかに邪魔されては堪ったもんじゃない。どうすれば自然に遠ざけられるか、手に持つシャープペンをクルクルと回しながら考えた。
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