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おまけのSS⑥(後編)

 それから一時間後、帰宅した如月は、リビングに入るなり言った。 「あれ、ここにあったシャツ知らない? ブルーのやつ」  いきなり来たか、と真島は身構えた。 (よりによって、修一さんの一番のお気に入り。怒られるだろうなあ。でも、ここは正直に!)  真島は、深々と頭を下げていた。 「修一さん、ごめんなさい! 実はあのシャツ、アイロンをかけようとして、うっかり焦がしてしまったんです」  彼シャツにトライしようとしたなんて、恥ずかしくてとても言えなかったのだ。 「よりによって、お気に入りのやつを……。俺、お詫びに何でもしますから!」 「焦がしたの?」  如月は、意外にも冷静だった。そして、こんなことを言うではないか。 「現物、持ってきてくれない?」 「……え? でも……」  見せたら、嘘がばれてしまう。どう切り抜けようか、と真島は必死に頭を巡らせた。 「かなり無残なことになってますよ!? だから……」 「そう。じゃあ構わないよ。元々雑巾にする予定だったけど、処分すればいいから」  え、と真島は思った。 「元々? 予定だった?」  うん、と如月はあっさり答えた。 「脇の下に穴が空いていたから、切って雑巾にするつもりで、取りあえず置いておいたんだ。焦げも小さいものだったら平気かなと思ったけど、それほど広範囲ならもういい」  真島は、へなへなと床に崩れ落ちそうになった。 (穴、元々空いてたのかよ! 余計な嘘をつくんじゃなかった……)  道理で、几帳面な如月にしては、無造作に放り出していたわけだ。真島が着たことで、穴が広がってしまったのだろう。如月が、首をかしげる。 「どうしたの?」 「い、いえ、別に……」  ふうん、と如月は笑みを浮かべた。 「まあ、シャツ自体はどうでもいいんだけど。さっき、何でもするって言ったよね? せっかくだから、何かしてもらおうかな」  そう言う如月の表情は、明らかに何かを企んでいるそれで。藪蛇とはこういうことを言うのだろう、と真島は実感したのだった。 了 ※お読みいただきありがとうございました。

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