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元・聖女 レイヴン 5
この不思議なサイクルに、当時の村人は聖女が転生を繰り返しているものだと信じて疑わなかった。顔貌は違うものの、歴代の聖女はどの女も美しく、男なら誰しも一度は彼女達に恋をしたほどだ。惜しむらくは歴代の聖女が誰しも短命であることだった。
だが、ある年を境に聖女の力は女ではなく、男に宿った。村人達は異変を感じつつも、彼を歴代の聖女と同様に扱った。大層美しく育った彼は、男でありながらも女のような美しさを合わせ持っていた。歴代の聖女と遜色ない美しさに加え、その身に宿す力は群を抜いていたという。
しかしそれが、不吉の前触れでもあったのだ。
彼の聖女が死んで以来、この村は近隣の村より迫害され、ひっそりと漁業を中心になんとか村としての形態を保っていた。
だが、村には再び聖女が生まれた。村人達の手によって葬られた聖女は、一年と経たずに生まれたのだ。判明したのはそれから十八年後のことだった。歴代の聖女と同様にある日突然、聖なる力をその身に宿したのだ。それも大罪を犯した聖女と同様に、性別は男だった。村人達の憎悪は当然のようにその者へと向けられ、青年になったばかりの彼は殺された。
それからも聖女は生まれた。やはり男だった。以後、彼らは生まれては殺され、生まれては殺された。そうして何回か繰り返された後、村人の中で一つの結論が出た。
女として生まれる聖女は本物の聖女であり、男として生まれる聖女は聖女ではなく悪魔の化身である。そして大罪を犯した悪魔の化身に罰を与えねば、本物の聖女は生まれてこないのだと。
以来、この村では聖なる力を宿した男をレイヴンと呼ぶようになった。共通である漆黒の髪が、村では不吉の象徴とされる鴉を彷彿とさせるからだ。また、もう一つの共通点として、レイヴンには身体の一部に特殊な痣が浮き出ることが判明した。力の発動を待たずとも、その痣が確認出来次第、彼らはレイヴンとして扱われることとなった。
レイヴンはすぐには殺されない。レイヴンが生まれた一家は村八分にされた後、彼が十八歳を迎えた時点で村の男達の慰み者にされるというルールが定められた。
今、レイヴンとして生を受けた彼も、例に漏れず男達の慰み者になり、罰を背負いながら生きている。自分を産んでくれた母は彼がレイヴンと発覚したその日に自殺した。父はレイヴンを連れて村から外れた山の上に小屋を建て、彼が十八歳になるまで男手一つで育ててくれた。しかしレイヴンが力を発動させると同時に、父もまた母の後を追うように自ら命を断ったのだ。実の息子が男達の慰み者になることに、心が耐えられなかったのかもしれない。
レイヴンは今年で二十ニ歳の誕生日を迎えた。十八歳になるや否や、男達の慰み者になった彼だが、普段は山奥でひっそりと暮らす生活だ。村が定めたルールにより、その家まで村人がやって来ることはない。四六時中レイヴンを痛めつければすぐに死に、今度はいつ誰の子供がレイヴンとして罰を受けるようになるのかと、村人が恐れるようになったからだ。
生まれたレイヴンはなるべく長く生かしつつ、痛めつける。それが現在の村人達によるレイヴンへの罰の与え方だった。
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