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んじゃ、お望み通りにしてやるよ 3(☆)
それからというもの、男達は代わる代わるレイヴンを犯した。前から後からと容赦なく責め立てるその光景は、時折酒を差し入れに来る女達が目を背けるほど惨いものだった。
彼らはレイヴンを人としてではなく、ものとして扱う。そこには当然のように、人間としての尊厳はない。彼が気を失っては怒鳴ったり、叩いたり、水を浴びせたりして強制的に起こし、再び犯す。それを何度も何度も繰り返し行う。まさに鬼畜の所業だ。
苦しみ喘ぐレイヴンを見て、僅かでも罪悪感を抱く者はそこにいなかった。皆が皆、嬉々としてレイヴンを辱めた。
そうしてレイヴンの瞳から光が消えようとしたその時、彼は颯爽と現れたのだ。
「さて、と……お前らのお楽しみに、オレも混ぜてくれよ」
そう言って邪悪な笑みを浮かべる人物は、レイヴンが最後に挨拶をしたかったと願った男、シンだった。
(幻……じゃない……本当に、シンさんだ……)
レイヴンの瞳には、再び涙が浮かび始めた。鏡を見なくともわかる。今の自分が想像以上に酷い姿をしているだろうことは。既知の事実とはいえ、この有様を直に目にしたとあっては、さすがのシンも軽蔑するかもしれない。それでも、今のレイヴンの中では惨めさよりも喜びの方が勝っていた。
事切れる前に、会いたい人に会うことができた、と。
レイヴンが一人涙ぐむ中、周りは騒然としていた。無理もない。唐突に起きた爆風の中から見知らぬ男が侵入してきたのだ。いったい何が起きたのか、そしてこの男はいったい何者なのか。皆、事態を把握することができず、各々が顔を見合わせながら口々に言った。
「何だ、あの髪ん色は……目も……」
「こんなん見たことがねえ……! 村の人間じゃない!」
「余所者だ……!」
「余所者が入ってきたんだ!」
その中で、出刃包丁を握る大男が、倒れているレイヴンに向かって目尻を険しく吊り上げた。
「レイヴン。てめぇ……匿ってやがったな?」
「……っ」
もはや弁明をする体力も残っていないレイヴンは息を呑んだ。その男の目にはもう、怒りしかない。たとえ言い訳を並べ立てたとしても、逆上するのは火を見るよりも明らかだった。
だが……。
(僕はもう、死んじゃうけれど……でも、シンさんだけは、逃さなくちゃ……!)
レイヴンは傷だらけの身体で、心を奮い立たせた。
「こ……この、人は……悪く、ない……悪く、ないん……です……」
「ああ!?」
「罰なら……僕が……僕が、すべて受けます……! だから……だから、この人には……何もしないで……!」
初めて反抗の言葉を口にしたレイヴンに、その場にいる男達がどよめいた。
出刃包丁を握る男は、一瞬呆気に取られたものの、その蟀谷にはたちまち筋が浮き上がり、血走る眼で怒号した。
「余所者の野郎に誑かされやがって……もういい。てめえは今夜、処刑する!」
「えっ……で、でも、それはルールが……ひいいっ!」
「こいつを殺してもどうせまた生まれるんだろ、新しい聖女が! だったら次の聖女を徹底的に躾けんだよ! 歯向かうっていうことすら考えつかねえような……従順なイヌによぉ!」
男は異議を唱えようとした仲間に対しても、手にする出刃包丁を振りかざし、唾を飛ばした。誰にも手がつけられない。皆、男からじりじりと後退りながらも、彼を宥めようと口を開いた。
「で、でもよ……こいつを殺したら……今後、困らねえか……? せっかくのいい玩具だったのに……」
「そ、そうだよなぁ……村の女は、ほら……面やあっちの具合がその……アレだし……」
「その点、レイヴンは孕まない上に、面もいいから……な? 今ここで手放すのは……」
「うるせえ! 殺すっつったら殺すんだよ!」
男達の説得にも聞く耳持たないのか、一際大きな声を張り上げた男はレイヴン目掛けて出刃包丁を振り上げた。
ブン! と、風を切るように振り下ろされる男の腕。しかし振り下ろされたものは出刃包丁ではなく、真っ赤な血飛沫だった。
「え……?」
その場にいた全員が同じ顔をしていたに違いない。皆、何が起きたのかがわからず、きょとんと目を丸くさせた。それまで出刃包丁を握っていた男も、いったい何が起きたのかと自身の手元を見つめた。そこにはあるはずのものがなかった。出刃包丁ではない。たった今まで己の一部であったはずの五本の指ごと、忽然と消えていたのだ。
「うぎゃあああ!?」
剥き出しになった骨と肉の間から噴出される血液が、辺りを真っ赤に濡らしていった。目の前で腕を振り下ろされたレイヴンの顔には、男達によって散々かけられた白濁の体液のみならず、この男の鮮血までもが振りかけられたのだ。
絶句するレイヴンと、叫換する男達。
突然の惨状に辺りが慄然とする中、出刃包丁を握る手を"握る"男がただ一人、静かに怒りを顕にしていた。
「猿の分際で処刑だの殺すだの宣ってんじゃねえよ。何様のつもりだ」
そして男はツカツカとレイヴンの下まで歩み寄ると、目の前で片膝を地につけた。続けて自身が羽織るマントをその身から剥がすと、一糸纏わないレイヴンの身体にそっとかけた。
「まったく……わざわざオレが見せた芸当に縋ることなく、こうなる運命を受け入れたお前には頭が下がるよ。全然呼んでくれないんだもんなぁ」
「し……シン、さん……」
そう言って苦笑する男の名を呼び、レイヴンはポロポロと真珠のような涙を零した。
シンはあからさまにふう、と嘆息すると、
「言いたいことも、叱りたいことも山ほどあるが、説教はオレの分野じゃない。お喋りは好きだが、今はどうにも余計なことを言いそうで駄目だ。だからな、オレがお前に告げる言葉はただ一つだ」
そしてシンは、その大きな手をレイヴンの頭にポンと乗せた。
「頑張ったな」
「…………っ…………ぅ……うん……!」
それは長きに渡り罰を受け続けてきたレイヴンの中で、すべてが報われる言葉だった。
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