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余命宣告
午後12:00
「森加瀬くん。こっち」
「はい」
あの電話の後、思い直して朝ドラを見ていた。が、しかし。何も頭に入ってこない。一分進める度に「今日のお昼は社長とごはん」「社長直々のお呼び出し」という思考にはまってしまい、どうにも世界観に入り込めないでいた。このまま見続けていても楽しくない。という事で社長より早めに行くための準備をしていた。
「ごめんね、急な呼び出しかけちゃって。本当に用事とかなかった?」
「あ、はい!大丈夫です!!特になにもなかったんで!!」
「そっか。あのね、今回来てもらったのは実は半分僕のわがままなんだ」
「ふぇ??」
俺はいったい何をびくびくしていたんだろう。
社長のわがままなんていつもの事じゃないか。
突然連絡が来て焦ってしまった脳みそがだんだん落ち着いてき始めた。
癪に障るけど前ちーちゃんが教えてくれたもん。『アイツ(社長にアイツ呼びはないだろby森加瀬)のわがままは大したことない』って。
昔、入社して5か月目の時にちーちゃんがふと休憩時間に小言を漏らしたときの事だった。気になったので詳しく聞いてみると、社長は時々社員の誰かを呼んでカフェなどに連れ行く、という恒例行事があるんだって。その時はたまたまちーちゃんが選ばれたらしい。
考え事をしながらふわふわした赤茶色の髪の後についていく。交差点に差し掛かった頃、ふと社長が声をかけてきた。
「森加瀬くんって何か苦手な物ある?」
「あ、いえ。特には…」
「そうなんだ、すごいね。僕結構好き嫌い多いから尊敬する」
「はぁ…例えば何が嫌いなんですか?」
「シイタケとなすびとブラックペッパー」
会話を膨らませるために恐る恐る聞いてみる。社長は顔色を変えるでもなく、淡々と答えていく。その間に信号が変わった。
「あのね、今回行く店すぐそこなんだ」
「あぁ、最近流行りのあそこですか」
信号に従って歩き始めると同時に社長は話し始めた。見失わないように少し速足で追いつく。
「うん。行ってみたかったんだけど一人じゃ入るの気まずくて」
「確かに。明らかに外装が女の子向けですもんね」
「そうそう」
今回行こうとしているのは最近女子社員が良く話しているというパスタハウス兼カフェの店だった。主に10代~20代の女子を対象にしている店らしく、明らかに内装・外装ともに”女子向け”といったような感じだった。そんな中可愛い系の男ならいざ知らず、ごつい社会人のアラサー男が入っていいような空間じゃない気がする。
「いらっしゃいませ」
「こんにちわ~あの二人なんですけど大丈夫ですか?」
「はい。大丈夫です。お席に案内させていただきますね」
「俺場違いだなぁ」とか思いながら店員さんについていく。思ったより店内は広くなく、外装に比べて落ち着いた風になっていた。
「ご注文がお決まりになられたらそちらのタブレットでご注文下さい」
「はーい」
店員さんと仲睦まじく会話をしている社長を尊敬する。普段の仕事をしている社長もかっこいいのだが、こうやってプライベートではふわふわしているのもギャップを感じる。
「森加瀬君は何食べたい?」
「俺ですか?!」
急に話題をふられるとは思っていなかった。ついでに言うとここにはパスタに合う付け合わせが多く、どれを選ぶか正直迷いどころだ。
「森加瀬くんは面白い反応をするよね」
「そうですか?」
「そうだよ」
ふふっと笑いながら口に手をあてる貴方は天使かなんかですか?ついでに言うと俺反応が変なのは社長という偉い人とごはんを食べようとしているからです!!
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