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第11話-2

人間界、魔法界、両方の世界を往来できる者はそう多くない。 まず、魔法使い。彼らは自分の意思で行ったり来たりが可能だ。許可は不要だが、一部危険人物指定されている魔法使いは人間界に行くことが禁止されている。 次に、非魔法使いである人間。彼らも何ら許可を得る必要は無い。彼らは意図せず魔法界に迷い込む事があるが、警備に当たっている魔法使いが記憶を消した上で彼らを元いた世界に戻す。魔法使いと同伴の場合は特に対応はされない。 そして、上記2つ以外の異質な者。厄介なことに、奴らは人間にも魔法使いにも気付かれずに往来することが多々ある。なまじ人の形をしていると、魔法使いにも人間にも同族に見られる可能性があるのだ。そのため、勘付かれずにのらりくらりと境界線を跨ぐ事が出来る。 「君も異質っちゃ異質なんだけどね。人間でも無いし、魔法使いとしても認められてないから」 すやすやと穏やかに眠るチャーリーを見て、リダクナは安心した。彼がアレに連れ去られてから2日経った。初めはただ眠っているようにしか見えなかったが、寝返りも打たないし寝言も言わない。寝息は常時一律で、そのうえ排泄も手伝ってやらなければならない所を見ると、眠っているだけでは無いと実感する。 リダクナは振り返り、扉の横に立つマシューを振り返った。 「何か進捗あった?」 「違和感があった」 「違和感?」 「クリスと一緒に、宗教団体跡地に行ってきたんだ」 「ああ、あの変死事件の……。どうだった?」 「天使の絵が出てきた。それと、大量の羽根と」 気持ち悪いなぁ、とリダクナは素直にそう言った。 「で、そこから何か分かったのか?」 「いいや、足取りは掴めなかった」 残念そうにしているマシューを見て、リダクナはふと思い立った。 「その天使の絵か、羽根かどっちか持って帰ってきたりする?」 「そんな事したら処罰対象だ」 「……で、本当のところは?」 マシューとリダクナはしばらくの間睨み合っていたが、観念したようにマシューは目を逸らした。これ以上やるとあの黒い瞳に考えを読まれそうだ。 「……羽根を。実は、これを見せに来たんだ。お前なら何か分かるかと思って」 「なら初めから言えよな。ほら、寄越しな」 マシューは、ジャケットの内ポケットから魔法でコーティングされた羽根を取り出した。コーティングは、余計な臭いや体液が付かない配慮だろう。 羽根を机の上に置き、コーティングを解除する。リダクナは黙って遠くから見たり近くから見たりした。 「何かわかりそうか」 「うーん、ちょっと待てよ」 リダクナは何も触れてない状態の羽根のイメージを、いくつかメモした。鳥類の知識は無いが、これは鳥の羽根では無いことははっきり分かった。この羽根からは鳥特有の、自由さが感じられない。おそらく、まともに空を飛んだことはないのだろう。しかし作り物にしてはあまりに精巧だ。ちゃんと生き物から生えていたみたいな……。 「これからこの羽根の持ち主の心境を読むけど、オレが良いって言うまで声をかけないでくれよ」 「分かった」 よろしく頼む、マシューは頭を下げた。 それに気を良くしたリダクナは、羽根のリーディングに取り掛かった。

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