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住み処

パタリと静かに閉まった玄関扉を呆然と見つめる。 帰らせて貰う予定が話の内容から察して、どうやらここは男の家らしい。 玄関だけでも高級なマンションだと分かる広々とした造りとなっている。 眩しい程に足元が輝いていて、闇の世界に従事する男の家とは思えない。 九条は靴を脱ぐと立ち尽くしている祐羽を振り返った。 「おい。そこに立っていても仕方ないだろう。入れ」 「…か、帰ります」 そう声を掛けられてチャンスとばかりに、勇気を振り絞って思いを訴えた。 「あ?」 「うっ…」 すると不機嫌も露に、九条が眉間に皺を寄せたのが分かり、祐羽は息を呑んだ。 「上がれ」 先程までの無表情はどこへいったのか。 九条は会って以来、初めて感情の変化を祐羽へ見せてきた。 首根っこを掴まれて引っ張られると、さすがに抵抗も出来ず慌てて足を動かしていた。 「足、汚れて…っ‼」 店から九条に抱えられて靴を履くことなく、ここへ着いた時には裸足でエレベーターに乗って来たので、足の裏は汚れている。 それを必死で訴えた。 この綺麗な廊下を汚してしまう。 すると、それに気がついた九条は祐羽を軽々と小脇に抱えた。 肩に掛けられていた男のジャケットが廊下へ落ちてしまい、思わず視線を投げてしまった。 そのまま九条は、スタスタと廊下を進んだ。 小脇に再び抱えられて一切の抵抗も許されず、祐羽はひとつのドアの前に辿り着いた。

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