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高級マンション
「どうぞ」
戸惑いつつも部下らしい男に促されて、ゆっくりと足からソッと出た。
ビクビクする祐羽の反対側から九条が、眞山が開いたドアから降りるのが見えた。
「こちらへ」
緊張に縫い付けられたままの足を叱咤して、前へと進む。
気がつくと、自分達の乗っていた車の後ろに、いつの間にか二台の車が停まっていた。
そこに、男たちが七人ほど立っている。
その中には、先日病院で会ったことのある見知った若い男の顔も見えた。
それ以外は見たことの無い、黒服の男たちが厳しい顔で並んでいる。
怖い。
そこで祐羽は、自分が人目に出られる格好ではないと気がついた。
この格好、もの凄く恥ずかしい。
そう思ったと同時に、フワリと肩に暖かな物が掛けられる。
どうやらそれは、スーツのジャケットの様だった。
ずれ落ちない様に、手で無意識に押さえる。
自分にはサイズ的に大きすぎる程に大きい。
今の格好を隠すには、ちょうどいいと言えた。
「これ…」
誰の物かなど、考えなくても分かってしまった。
驚いて顔を上げると、目の前には九条が立っていて、自分を見下ろしていた。
視線が絡み合う。
それは十秒にも満たないはずだ。
けれど、驚くほど長く感じた。
「…来い」
「あっ⁉」
そのまま肩を抱かれて、半ば無理矢理エレベーターへ押し込まれる。
後から眞山と、病院で見たことのある黒服の男がひとり乗り込んできた。
ボタンが押され扉が閉まると、息苦しい空間が数十秒続いた。
決して狭い空間ではないが…。
暫くして、再びドアが開く。
着いたマンションのフロアは、高級なことを伺わせる造りとなっていて、どうやらここには一軒しかないらしい。
「それでは、社長。何かありましたら、いつでも連絡下さい。直ぐに参りますので」
エレベーターを出て少しの所へ、玄関ドアが現れる。
その前に着くと、眞山が口を開いた。
九条がその間にも玄関の施錠を解除する。
「明日は十時にお迎えに参ります」
「分かった」
九条が頷くと、祐羽は玄関へと押し込まれた。
祐羽が慌てて玄関を振り返る頃には「失礼します」と言って、頭を下げる眞山の頭部がドアの向こうへと消えていくところだった。
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