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待ってた
背にした校舎からは次の授業を知らせるチャイムが鳴り響いた。
午後の授業を残して、ましてや仮病で帰るなんて初めての事だ。
基本的、真面目に生きてきた祐羽にとっては心苦しさも感じるが、今回ばかりは仕方ない。
「早く帰らなきゃ」
こんな時間に帰れば家に居るだろう母親に、心配されるのは分かっている。
けれど本当に不味い事になる前に相談するのが正しいのかもしれない。
子どもの祐羽に、ヤクザとの対抗する術はないのだから。
仮病で帰る手前走るわけにもいかず、静かな足取りで門を潜った。
平日の昼過ぎ。
それも学校の近くは、家があったり家庭菜園や大きな家の塀が続いており、人通りも多くない。
学校の校舎からも離れたこの位置ならば、体調不良で帰る祐羽が少々元気に歩いても誰にも見咎められはしない。
いつもの歩調に戻り学校の塀沿いを速足で歩く。
「帰ってお母さんに何て言おう…」
これまでの事を順を追って話をして、どこまで信じてくれるか不安もあるが、きっと分かってくれる。
そして一緒に解決をしてくれるだろう。
祐羽はそう思うだけで、問題が全て片づいたと思うほどに前向きになっていた。
それは母親に相談出来ればの話で、家に無事辿り着ければという事で、メッセージアプリに嘘でもいいから素直な返信をしておいたら…という前提の話だった。
後悔先に立たず。
駅への道は、ここの角を曲がる。
曲がってそのまま真っ直ぐ…という所だった。
「!!!!?」
祐羽は声にならない悲鳴を上げ驚きに目を見開いて、その場に立ち止まった。
「待ってたよ~」
車道に見たことのある黒い車が一台。
そのすぐ脇に立つ中瀬が、胡散臭い笑みで呑気にそう言った。
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