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迎え

な、なん…で…? 祐羽の疑問は顔に出ていたようで、中瀬が唇を持ち上げた。 「既読スルーされたから素直には来ないだろうと思って~。案の定、時間前に来てせ~いか~い」 それだけの事で? しかも随分と時間前倒しで来ている。 祐羽は愕然としながら中瀬を見つめた。 「俺ね~こう見えてそういう関係には鋭いの!だから~無駄な事は考えてないで欲しいかな~」 チャラけた風にそう宣って、中瀬は車の後部座席のドアを開けた。 「ささっ、どうぞお姫様~。無理矢理押し込むのは趣味じゃないんだよね」 それからドアに片腕を掛けて慇懃無礼に祐羽を促した。 「…あ、の…っ」 「ん~何?」 喉に貼り付いていた声を絞り出す。 「…乗りたくないです」 こんなことを言ったら怒鳴られるかもしれない。 機嫌を損ねれば何をされるか分からないのが、アウトロー代表ヤクザの本質だ。 利益優先の彼らが、たかが一般市民の祐羽が相手とはいえ、逆らえばプライドを傷つけられたと思うだろう。 こんな小さな存在で自分達に逆らった、と…。 言ったはいいが、次にどう出られるかという不安を圧し殺し、祐羽は中瀬の様子を伺った。 目の前の人畜無害そうな、それどころかフレンドリーな様子を見せる中瀬でさえ内心は読めない。 「えぇ~っと、あのね月ヶ瀬くん」 「…」 困った風に名前を呼ばれて、目線だけを上げて中瀬の顔を見た。 「これは決定事項なの。社長からの命令。俺も運転手してる加藤さんも、そしてもちろん君も…逆らえないんだよ」 その言葉に祐羽は唾液を飲み込んだ。 中瀬が片手を腰に当て、小首を傾げながら微笑んだ。 「きっと誰も逆らえないよ、あの人にはね」

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