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用意された道筋
逆らえない。
中瀬は社長には誰も逆らえないと言った。
その社長というのは、あの九条の事だと直ぐに分かる。
九条は圧倒的なオーラを放つ男だ。
整った顔やその長身だけで言っているのでは無い。
無慈悲に敵対する人間や場合によっては部下に暴力を奮った姿に、少なからず恐怖を感じたからだ。
きっと中瀬の言う言葉は正しい。
逆らえばどんか報復をされるか分かったものではない。
「あ~あとそれに、この前のヤミ金でサインした契約書」
「あっ!!」
そういえば九条の事ですっかり忘れていたが、契約書に自分はサインをしていた事実を思い出す。
契約書の効力は絶対のはずだから、何とかしなくてはならない。
が、どうしたら…そして何故その事を中瀬は知っているのだろうか?
「それについて話しもあるんだよね~契約書俺が今持ってるし」
そう言って中瀬は懐から1枚の紙を取り出すと、ヒラヒラとこちらへ見せてきた。
「そ、それ…っ!」
それは確かに自分がサインをした契約書だった。
「話し聞く~?それともヤミ金で、これからせっせと体売って働く~?」
そこまで言われてしまえば、祐羽の選択肢はひとつしかない。
ぎゅっと手を握り締めて、震えそうになる唇を開いた。
「は、なし……、聞きます」
勇気を振り絞った祐羽を見て、中瀬はニコリと笑った。
「殺したりしないから安心して乗って!大丈夫だから、さぁさぁ早く」
心底嬉しそうに言いながら中瀬は祐羽の側まで来ると、優しくけれど力づくで車へと乗せた。
白昼、堂々と祐羽は半ば拉致に近い形で連れられて行った。
選んだつもりが、それは全て相手の用意した道へただ進まされているに過ぎなかった。
抵抗するはずだった。
その決意はあっという間に消え去る。
大人…ましてやヤクザ相手に祐羽が言葉と知恵、機転で勝てるはずもなく。
そして、九条という男には祐羽など空気の様にきにもならない存在だろう。
他の人間は全て羽虫にすぎない。
それほどに誰ひとりとして、九条には敵わない。
そんな事を祐羽が理解して気づくのは、遠い先の事だ。
祐羽の隣に中瀬が座ると、黒塗りの高級車は静かに走り出した。
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