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親切な忠告
車内は少しの間沈黙が流れた。
隣には中瀬。
そして運転席は、この前とは知らない男がハンドルを握っていた。
走り出した車の外の流れる家を見て、不安が募ってくる。
誰も祐羽がヤクザの車に乗った事を知らないのだ。
何かあっても助けてはくれない。
ここでまた後悔が押し寄せる。
なぜもっと抵抗しなかったのか…。
「え~っとね、月ヶ瀬くん」
声を掛けられて中瀬を見る。
「先に言っとくな!抵抗するなよ~。力ずくは嫌だし、親に迷惑かけたくないだろ?」
「お、お父さんとお母さんには、何もしないで下さい!!」
不安のなかにあっても両親の事を出されると弱い。
「うんうん。もちろん出さないよ~お前が大人しくしてればな~」
そう言われて、益々抵抗する気力は奪われる。
大人しく従っている間は大丈夫という事だから。
「まぁ…決定権はぜーんぶ社長にあるけどな」
この時ばかりは中瀬の顔も引き締まり、声のトーンも落ち着いた。
それだけ九条には絶対的な力があるのだと、暗に言っている。
それはどれほどの物なのか、と祐羽はジリッと汗を浮かべた。
中瀬は気にすることなく隣に座る祐羽を見ながら話しを続けた。
「さっきの契約書の事だけどアレ無効だから」
「えっ?!」
てっきりヤミ金の元でとんでもない人生を送る事になるかと覚悟していた祐羽は、その言葉に間抜けな声を出した。
「未成年の契約には親権者…つまりはお前の両親の同意がないと無効ってワケ。それを知らないお前はまんまと騙されて売られる寸前だったって事~」
それを聞いて心底ホッとした祐羽の前で、中瀬が契約書を破り捨てた。
「まぁこの契約は社長の力で元から無かった事になってるから~。それとお前は何か分かってなさそうだから忠告しとくぞ!!」
中瀬が人差し指を祐羽に向けて、念押しした。
「社長には絶~対に、逆らうなよ!?」
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