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沈黙地獄
まさか同じテーブルについてくるとは思いもせず、祐羽は驚きに目を開く。
仕事終わったのかな?
それとも休憩?
さっきまで座っていたソファと違いダイニングテーブルは4人掛けのものだ。
その為、向かい合う形で座った九条が近すぎる。
長くて男らしい指先がカップに絡む。
口元に持っていくと傾けられる。
苦いコーヒーの何処が美味しいのかさっぱり理解できない祐羽だが、室内に漂う香ばしい薫りは嫌いではない。
コーヒー好きには堪らないのだろうと思うが、飲んでいる九条本人を見ても美味しさは全く伝わらない顔をしている。
九条はテーブルについてからコーヒーを飲みながら、祐羽の顔を見てきた。
その視線は凶悪な程に怖かった。
「………うぅっ」
気まずい…。
祐羽はパンを食べてはジュースを飲みを繰り返しながら、そう思っていた。
2個目のパンは食べ終わり、既に3個目のデニッシュへ取りかかっていた。
カスタードの入った甘めの菓子パンで終わりにしようと決めたものの、なかなか進められない。
それというのも、お腹がいっぱいになってきたことも事実だが、九条が食べる自分の姿をあれからずっと見てくるからだ。
食べにくいこと、この上ない。
もうひとつは、これを食べ終わったらどうしていいのかという迷いだ。
この沈黙という居心地の悪さを誤魔化す為にパンを食べているのに、食べ終わったらやることがなくなって沈黙地獄に陥ったらそれこそ鬱になる。
その時は九条になんとか家に帰らせて貰う為に勇気を出して伝えてみるが、その勇気を出すのがなかなか骨を折る。
相手が一般人ではないヤクザな上に、1度体を奪ってきた相手だ。
そして両親に危害が及ぶ可能性を示唆されている現状、迂闊な発言が命取りになる。
いくらお子様だ天然だと周囲から言われようとも、祐羽も一応高校生だ。
その辺りは、慎重になる考えくらいは持っていた。
「あ…」
そんな事を考えながら食べていたのが悪かったのか、気がつけば完食してしまっていた。
なんでこんなに早くに完食したんだ自分のバカーっと心の中で責めまくったが、後の祭り。
眉をしんなりさせてジュースで仕方なく喉を潤した。
これからどうしたらいいのか?
この沈黙地獄で、あと何時間拘束されるのか…そもそも帰らせて貰えるのか?
「あ、あの…。ごちそうさまでした」
と考えに脳をモヤモヤさせつつも祐羽は、ジュースを飲み終わって挨拶をした。
「もういいのか?」
九条の言葉に祐羽はコクコクと頷いた。
だからもう家に帰らせてください!
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