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妥協点

「で…出ません、けど…」 「なら問題ないな」 九条はあっさりと言い放った。 祐羽は憧れてバスケ部に入ったが、正直下手くそだ。 練習試合に出るなど、今の状態で夢のまた夢という事は百も承知していた。 けれど練習は頑張っているし、練習試合では先輩の応援をしたりサポートをしている。 バスケ部員として当然ではあるが、みんな頑張っているのにそれを制限されるのは嫌だった。 第一に関係のない九条に、バスケ部についてそんな身勝手を振り翳す権限はない。 祐羽は九条の冷めた視線に負けまいと力を入れた。 「でもっ…、一生懸命練習してるんです!!見ることも勉強になるし、それにバスケ部の一員として応援も頑張りたいんです!…た、確かに僕は下手くそなんですけど、で、でもっ!…上手くなりたい気持ちは持っていて…部員みんな勝ちたくて練習頑張ってて……」 興奮し過ぎて酸素が足りなくなる。 大きく息を吸って吐いて、祐羽は頭を下げた。 「だから、お願いします!なるべく今まで通りにさせて下さい!!」 「…」 頭を下げたままの祐羽に、九条からの返事は無い。 これだけ頼んでも無理だったのだ。 相手はヤクザ。 正攻法など通用しない。 諦めに唇を噛み締めた祐羽だったが、まさかの九条から諾の返事が出た。 「分かった」 「…え?」 「何を呆けた顔をしてる。俺がお前の願いを聞いてやると言ったんだ」 「だ…だって…」 まさか許してくれるとは。 これで呆気に取られるなというのが無理だった。 「ただし、俺は譲歩してやったんだからお前も少しは俺に譲れ」 そんな九条の目は『これ以上は譲らない』と語っていた。 「まず、平日放課後。俺からの連絡があれば必ず来い。中瀬に迎えに行かせる」 「…」 「土曜は俺が帰れない時以外は泊まれ。日曜の夜には帰してやる」 「…部活…」 毎週末の泊まりと、日曜日も一緒に過ごすかと思うと困惑しかない。 それに今話したばかりだ。 「日曜の部活は休みになるようにお前の学校へ取り計らう。練習試合の時だけ許可しよう」 九条からすれば、大きく譲歩した形の様だ。 少しでも妥協点があるのなら、ここは素直に頷くしかなさそうだった。

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