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犬の手はいらない
まさかの九条の手料理とは想像もしていなかったが、本当にちゃんと作れるのだろうか?
疑いの目を向けるが、九条はテキパキと準備をしている。
あれだけ何もなくシンプルだったはずのお洒落なキッチン。
それがあっという間に、料理研究家のスタジオばりに様変わりしていた。
九条に任せっきりで何もしないのも居心地が悪い。
ここは何か手伝うべきだろうと、祐羽は様子を伺いつつ近づいた。
「…あ、のぅ~」
「…」
祐羽が恐る恐る声を掛けると、動かしていた手を止めた九条がこっちを見る。
「えっと…その、僕も何か手伝うことないですか?」
そう訊ねると、九条は再び手を動かしながら問いかけてきた。
「料理出来るのか?」
「…せん」
「あ?」
「…出来ません」
訊かれて返事をしたものの小さすぎて届いていなかった様で、今度は九条にも聞こえたようだ。
「なら顔でも洗って大人しく座っとけ、邪魔だ」
邪魔…!
「…はい」
「犬の手は必要ない」
「…!!!」
犬。
まさかの犬。
犬扱いされてしまった…。
祐羽は項垂れたまま洗面所へと向かい涙に濡れていた顔を洗う。
部屋に戻ってキッチンへ視線を向けると、九条が手際よく調理している姿が見えた。
「…はぁっ…」
その様子に出番は本格的に無さそうだと溜め息をついた祐羽は、大人しくスゴスゴとソファへと戻った。
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