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第216話 期待
眞山は集団の中にいる祐羽を見つけると、口を開いた。
「こんばんは、月ヶ瀬くん。迎えにあがりましたので、どうぞこちらへ」
丁寧な言葉で促される。
「えっ?あ…」
中瀬ではなかったが、眞山は知っている顔なので間違いないとは思う。
けれど、あまり関わりが無いので一瞬躊躇してしまうが、そんな祐羽に声量を抑えた声が掛けられた。
その声は先頭の車の助手席からだった。
「おいっ、早く乗れよ!」
そこには中瀬が乗っており、窓を開けてこちらを焦りと少し怒った様子で急かしてくる。
それを見て祐羽は、慌てて部員に向き直って頭を下げた。
「あのっ、すみません。迎えが来たみたいなのでっ」
ペコペコ頭を下げる祐羽に、部員が不安そうに訊ねてくる。
「えっ、おいっ。大丈夫か?本当にお前の迎えか?」
「騙されてないか?」
「脅されてるとか…」
そう言われてドキッとする。
脅されているのは当たりだ。
けれど、今日は自分の意思で車に乗って九条に会うのだから。
「いえ、大丈夫ですっ。知り合いなんです」
そう言うと今度こそ祐羽は「すみません。お先に失礼します」と慌てて挨拶を済ませ、不安そうに見つめる部員に背を向けた。
あれだけ敬遠していたはずの裏社会の人間相手だが、おかしな事に慣れも出てきたのだろうか?
以前の自分なら今のバスケ部員達と同じだったかもしれない。
今も少し怖くてドキドキするし不安も残ってはいるが、九条に無理矢理及ばれたセックス以外で酷い事を受けていないからだろうか…そこまで怖くはなかった。
第一に、これから九条に会えるからだろうか。
その期待の方が大きくなっていて、恐怖心を押し返していた。
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