216 / 1012
第218話 知りたいけれど
走り出した車はあっという間に住宅街を抜けて、大通りへと繋がる道を流れる様に走った。
その間、車内は息をするのさえ気を使うほど静かで祐羽は小さく座っていた。
あれだけ色々話をすると豪語していた自分の浅はかさを呪いたい。
実際に九条を目の前にして正直いって何も出来ない。
声を聴いてドキドキして、それだけだ。
まさかの予告なしの登場は予測してなかったとはいえ、これではどうにもならない。
訊きたい事は頭の中にメモしたはずなのに、この動く密室で、しかも九条以外にも部下がふたり居る前で、どうにも聞きづらかった。
チラリと横を見ると、九条がこっちを見ていて思わず心で叫んで体が自然と逃げを打つ。
それに対して九条の片方の目尻がピクリと動いたのは気のせいであって欲しい。
まさか怒ったりはしてないとはおもうが。
そして気まずさに視線をゆっくり斜め下へと逃がす。
あ~ダメだぁ…。
この状況で訊くなんて無理だよ。
第一に何で…何で迎えに来てくれたのかな…?
仕事で忙しい九条が、自ら来るなど思いもしなかったし、以前の話では中瀬を迎えに行かせるから家に来いと言っていたのに。
理由が知りたい…。
けれど、どうしても最初の一言が紡ぎ出せなくて、緊張の汗だけがジリッと浮かぶ。
「おい。家に連絡しろ」
すると、そんな祐羽の緊張を気にした様子もなく九条から声が掛けられそちらへと視線を戻す。
「え?…あ、はい」
素直に頷いて、祐羽はスマホを静かに取り出し母にメッセージを送る。
そうだ。
これから迎えがある時は、九条と一緒に過ごす事が義務づけられていたのを思い出す。
「飯食いに行くぞ」
「ご、ご飯食べに…?」
思わず聞き返していた。
※第2回番外編プレゼントの受け付けは締め切りました。ありがとうございました。
ともだちにシェアしよう!