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第250話 目立ちすぎ
時間にしてみると、そんなに長くはなかっただろう。
けれど黙ったまま自分を見つめてくる祐羽に、九条が目を細めて訊いてくる。
「どうした?」
「いえっ…、何でもないです」
胸に溜まった不思議な感覚はそのままに、祐羽は微笑んで見せた。
「…あのっ、お仕事、お疲れ様です」
「あぁ。悪かったな」
なんとか紡ぎ出した労りの言葉に対して、九条は髪をかき上げながら応えた。
見た目からは反省しているように一切見えないが、そんな言葉を普段口にする男ではないので本当にそう思っての事だろう。
嬉しいものの九条らしくない発言に、少し驚き慌てて首を振った。
「えっ、そんな!全然大丈夫です!!」
「…」
九条がほんの気持ち程度眉を寄せた。
そのちょっとした仕草で、本当に申し訳ないと思ってくれたのが十分伝わる。
そんな九条の思いに、祐羽は心に暖かい何かが流れ込んでくるのを感じた。
そうして九条の視線に包まれ思わず緩んでしまった視界の端に、漸く見知った人物を認識した祐羽はそちらへ顔を向けた。
九条にしか意識が向いていなかった自分が恥ずかしい。
そこには、同じくスーツ姿が逞しい体格に似合う眞山と少し目立つ見た目の青年といった中瀬が控えていた。
長身スーツ姿の九条に眞山、私服の青年に学ラン姿の自分。
このメンバーのアンバランスさが目立ち興味をそそられるのか、モールの客がこちらを見ながら通りすぎていった。
「ここか?」
そちらへ気を取られていると、九条が水族館の入り口に視線を投げて訊いてくる。
我に返った祐羽は、すぐに頷いた。
「あっ、はい」
「…今日は貸し切りか?」
そんな訳がない、と祐羽は両手を振って否定した。
「いえっ、さっきまで沢山人入っていったので中に居ると思います」
「そうか。…こっちはさすがに人が多いな」
そう言いながら九条が今度はモールへと顔を向けると、近くで様子を見ていた女性が「ひゃぁっ!!」と声を上げ、別の所でも何やらザワザワと変な空気へと変わっていった。
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