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第251話 うっかり具合に

よく見ると、遠巻きに多くの客がこちらを見ていた。 見ているのは女性が多いだろうか。 九条さんカッコイイもんね…身長高いし、しかもスーツだし。 眞山さんも男らしいし中瀬さんも二人とも違うタイプでカッコいいから余計に目立つんだろうな。 これは早々に入った方がいいだろうと、祐羽は鞄の中からチケットを二枚取り出した。 「あのっ九条さん、これチケットです」 九条に渡そうと差し出したチケットの一点を見て、ある事に気がついて目を凝らす。 そして次に驚きに声が出た。 「…って、あぁ…っ!!」 よく見るとチケットは1枚につき大人(学生は高校生以上)1名有効と書いてある。 よくある割り引き券のイメージを持っていて、勝手に4人程度までなら大丈夫と思い込んでいた。 だから自分と九条が入っても残り数人部下が着いて来ても入れると思っていたのだが、よくよく考えれば分かった事だ。 譲ってくれた渋谷も彼女と行く予定で2枚持っていたのだから1人1枚に決まっている。 しかも渋谷がわざわざ彼女に割り引き券を渡す筈がない。 どうせ渡すならチケットに決まっている。 そこに気づきもせず誘ってしまった事実にガックリと情けなくて落ち込むと同時に焦る。 なんてバカなんだ…と自分を殴りたくなってきた。 新しく買うにしても、そんな金銭的な余裕は無い。 ナイトパスは1枚5,500円で、それを二人分追加で購入するお金は今財布の中には無い。 自分のうっかり具合に、祐羽は顔面蒼白になった。 あぁっ、自分のバカ…。 なんで初めにしっかり見てなかったんだろう? いつも僕はこうだからダメなんだ。 もうこれは謝るしかないよね…、本当に僕はバカだ。 本当にごめんなさい。 「あのっ、…そのっ、すみません…。譲って貰ったチケットでみんな入れると思ってたんですけど、よく見たら1人1枚だったみたいで…。それなのに2枚しかないんです…」 チケットは1人1枚で2枚しかない。 これはどうしようもない。 謝るしか他に方法はなかった。 「だからその…今日の水族館は無かった事にして貰えませんか?僕から誘ったのに、…本当に、すみませんでした…」 祐羽は情けない声を発し頭を下げた。 申し訳なさすぎて泣きそう…。 これは自分の初歩的なミスだ。 どうして最初にしっかりと確認をしておかなかったのかと、反省するが今更だった。

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