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第253話 ふたりで

ふたり揃ってゲートまで歩く。 いざ通る段になって九条に行って貰おうと一歩下がったが、自然なエスコートで結局自分が先に通る事になってしまった。 通らせて貰いそれから振り向くと、九条が続いてチケットを差し出している。 それを目にしながらも現実でない気がしてしまい本当に一緒に水族館に来たんだと思うと、感慨も一入だった。 あんなに嫌だった相手と今、水族館に来ているなんて幻でも見ているかのようだ。 それに、係りの女性が赤い顔で何とも表現のしようがない顔で九条を見ていたのが面白かった。 そんな彼女たちの気持ちも分かってしまう。 九条の事をカッコイイと思ってしまうのは大多数が抱く当たり前の反応の様だ。 もしかしたら自分が彼女たちの立場なら同じ反応をしていたかもしれない。 「い、行ってらっしゃい」と客を見送るお決まりのセリフさえ係員は裏返っていた。 まるで九条と出会った頃の…いや、最近も変わりない自分を見ている様でちょっと複雑だった。 九条がチケット確認を終えてゲートを抜けてこちらへ来るその後ろ姿を見ていた係員と目が合う。 どうやら祐羽の存在を思い出したらしい。 それを見て『待ち人ちゃんと来てくれたんですよ。』と思わず言いたくなった。 さすがに言えないが、九条が来てくれた有り難さに笑顔が浮かんだ。 改めて思ったら九条さんとふたりで水族館…なんか凄いかも! よぉ~し、せっかく来たんだし楽しむぞ!! 「それじゃぁ、行きましょうか…」 祐羽は胸いっぱいに空気を吸い込むと、勇気を出して九条に話しかけた。 九条がフッと笑ってくれたのを見て意気揚々と一歩を踏み出す。 すると、海の世界へ誘うかの様な空間がふたりを出迎えてくれた。

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