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第249話 寂しい時間
しかし願う心とは裏腹に、もちろん九条の姿は見当たらない。
溜め息をつきながら何気なく周りを見ると、夜に移りゆく時間の為か水族館への入館者も少なくなって来ていた。
新しくカップルが入って行った後は、誰も来ない。
ゲート入り口の受け付けの人間も暇になったのか、ふたりが何気なくお喋りを始めている。
時折こちらを見ては何か話すので、自分の事を言われているのだろう事は分かった。
待ち人来ず…とでも言われているのかもしれない。
それとは反対にモールは相変わらずの人の多さだったが、そのせいで祐羽ひとりが世界に取り残されてしまったかの様な錯覚に陥る。
水族館の敷地とモールの通路の境はくっきりと色が分かれていた。
それが違う世界として境界線を引かれていると感じてしまう要因にも思える。
ひとりぼっちという事実に、思わず顔をまたまた地面へと向けてしまった。
寂しさに拍車が掛かかる。
ひとりで寂しいとか…いや、違う。
これから九条さんが来てくれるんだから、ひとりじゃないんだ。
だって約束してるんだもん。
あと、さっきの事だって気にしちゃ駄目だよね。
僕は何もしてないんだし。
いつも直ぐに落ち込む性格にいい加減自分でも嫌気がさしてくる。
きっと、こういう性格が表に現れているから敏い女子に気づかれて敬遠されるのかもしれない。
「気持ち変えなきゃ…」
これから九条さんと水族館に行くんだから、こんな落ち込んでたらダメだ。
僕がこんな沈んでだら九条さんも面白くないよね…。
… よしっ!今日は絶対に九条さんと話もして、魚もたくさん見たりして楽しむ!
そうする事で、九条との関係性も自分自身も両方が変われる気がした。
そう強く思った祐羽の耳に、周囲が大きくザワつくのが分かった。
「?」
不思議に思い祐羽が顔を上げようとするよりも、先に謎は解けた。
「待たせたな」
待ち焦がれた声が降ってきた。
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