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第254話 冷静に
う…近い…。
身長差があるせいで九条から見下ろされる形になり、しかも薄暗いせいかいつもと迫力が違った。
隣という近すぎる位置のお陰で、迫られてる感覚になってしまう。
九条が自分に迫るなんて事は有り得ないし、ただの考えすぎだとは分かっている。
しかし静かな空間にふたりきり、しかもその(どうした?何だ言ってみろ)という無駄に訴えかけてくる表情のせいで、おかしな考えが脳裏を掠める。
正直その顔はやめて欲しい。
普通に話し掛けて貰った方が有り難い。
なんだか九条さんに近くで見られるのって恥ずかしいんだけど…この距離ムリだよ~!
顔が仰け反り思わず一歩片足が後ろへと下がってしまった。
九条が不思議そうに方眉を一瞬上げ(?)と訊いてくる。
「うっ」
それさえ見たことのない仕草だった為に、祐羽の心臓に負担が掛かってしまう。
…九条さんカッコよすぎて困るんだけど。
そこで、ふと思った。
こういう思考に流れてしまうのは、この照明のせいに違いない、と。
赤と青の微妙な色合いは所々で紫を作り出して、九条の色気を引き立てるアイテムとしか思えない。
きっとそのせいだ。
「どうした」
「あ、いえ…その」
その無駄に艶のある声で声を掛けられて、口ごもってしまう。
それにしても…と思う。
どんな場所でも九条の魅力は引き立つらしい。
イケメンとはお得だ、と祐羽は羨むと同時に頬が火照るのを抑えようと深呼吸をして平静を装った。
九条がイケメンなのは今に始まった事ではない。
少しは見慣れているのだから頑張れ自分!と気を取り直した祐羽は、引けた腰をなんとか立て直し姿勢を正す。
そして1度息を吐き出して冷静に…と気持ちをなんとか切り替えた。
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