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第263話 注目を浴びる男

少し気持ちの整理が必要だと、祐羽は泳ぐ魚に意識を集中した。 けれどこちらへ向かって泳いでくる魚の大きさに驚くと同時に嬉しくなり自然と隣に並んだ九条を見上げた。 「凄いっ。見てください、大きいですね!」 「そうだな」 先程までの可笑しな心臓の高鳴りは鳴りを潜めてしまい逆にワクワクの方が全面に出てしまう。 そうして結局九条と視線を交わした祐羽は、笑顔を浮かべたままふと気がつく。 あ。僕、さっきまでドキドキしてたのにもう忘れてる。 九条さんは全く気にしてないし、僕も考えすぎないで今は楽しもう。 そう決めて魚の泳ぐ水槽へ意識を戻した。 目の前には、この水族館で1番の巨大水槽があった。 たくさんの魚達が悠悠と泳いでいる様は圧巻だ。 この巨大水槽を眺めているのは自分たちだけではない。 隣の方には今まで見当たらなかった他の客が大勢居り、祐羽達と同じ様に水槽を感嘆しながら見ていた。 後ろを見るとホールの中央から後方にかけて椅子が設置してあるからか、休憩している客も多い。 立って見ても座ってじっくり見てもどちらも良さそうだ。 そう思いながらホールを何気に見回した祐羽だが、チラチラとこちらへ向けられる視線に気がついた。 先程もホールへと入って第一声の自分の声に反応した客の視線を浴びたものの後ろから現れた九条へ一斉に向いてしまっていた。 そんな九条が学生服の男子高校生と水族館でこうして魚を見ているのだから、注目を浴びてしまうのは仕方なかった。 自分にも(どういう関係?)といった多少の視線が向けられるが、九条へ視線を向ける人が圧倒的に多い。 じっと見つめている人や連れの会話の合間を縫ってこっそりと見てくる人。 そんな風に見られている立場の九条はというと、気づいているのかいないのか、全く表情ひとつ変えず立って居た。 でも、ずっと見られてるのって流石に気になっちゃうよね。 楽しんで貰いたいんだけど…。 イルカショー開始までもう少しだけ時間がある。 ここから通路を行った先にイルカショー会場があるので、みんな開始時間まで待っているに違いなかった。 注目を浴びるのもそれまでの辛抱だ、と祐羽は九条と一緒に並んで巨大水槽を見上げた。

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