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第262話 視線
そうして自分の気持ちの波を落ち着けけつつ、ふたりで並んで続きの展示を静かに見て歩いた。
九条がどう思っているかは謎だ。
ドキドキしつつも何処か心地よく感じながら、祐羽は時折隣を歩く九条の顔を仰ぎ見た。
九条さん…どう思ってるんだろ?
こんな風に誰かと歩くのは初めてだ。
両親の腕に掴まったり、友人と絡む事はもちらんある。
けれど家族でも友人でもない大人の男の逞しい腕に手を掛けてこうして歩くなんて、想像すらしなかった事に戸惑いが大きい。
そんな中で不思議と嬉しさが沸き立っている。
何度目かに顔を上げた時、九条と視線が合ってしまい顔がカッと一気に熱を持つ。
そんな祐羽とは対照的に、九条が平然とした顔でイルカショーの時間は大丈夫なのかと訊いてきたので、ひとり意識している事に恥ずかしさを覚えた。
そして慌てて時間の確認をする。
まだ時間はあるものの間に合わないといけないので、少し急ぐ方がいいかもしれない。
自分ひとり腕を組んだ事にドキドキしていたという事実を誤魔化す為にも、祐羽は早足で次のホールを目指した。
そして次に辿り着いたホールは、今までの展示室の中でも1番広かった。
「わぁ~、凄い!!」
祐羽は無意識に九条の手から抜けると、水槽へと駆け寄った。
それからこの感動を共有したくなり、九条を振り返る。
「!!」
振り返ると、九条がどこか穏やかな表情を湛えてこちらへと向かってくる。
その姿を見ると、今更ながらドキッとしてしまう。
背は高く顔も整っていて独特の雰囲気を醸し出しており、腰の位置が羨ましい程に高い。
決して細くない事は、1度肌を重ねた経験で記憶にしっかりと刻まれていた。
その体格にスーツがピシッと決まっている。
そんな九条がこの空間で目立つなという方が無理だろう。
今日何度こうして心臓を高鳴らせればいいのだろうか?
祐羽はドキドキする心臓に気づかない振りで、視線を九条から外し、目の前の水槽へ向けた。
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