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第261話 暖かさを感じて
なんだ…、飼育員の人か~。
「はぁ~びっくりしたぁ…」
正体が分かり心底安堵した祐羽は、盛大に溜め息を吐いた。
大袈裟でも何でもなく、本当に心臓が止まるほどに驚いたのだが、正体が分かってみれば叫びすぎた気もしないでもない。
飼育員の人、びっくりしただろうな…。
逆に相手の方が絶対に驚いただろうと、申し訳なさと若干の恥ずかしさが生まれた。
次からはああして人が現れる事も頭に入れておこうと思う祐羽だったが、ハタと気づく。
え?あっ!!
無意識だったとはいえ、九条へ自分から抱きついてしまっているではないか。
しっかりとくっついて、スーツを握っていた。
おまけに、すっぽりと抱き込まれていることに焦る。
僕っ、なんてことをっ!?
「す、すみませんっ!!」
慌てて離れようとするも九条は離してくれない。
えっ、ちょ、ちょっと?なんで離してくれないの?!
「九条さんっ?!」
「怖いならくっついてろ」
「えっ!?いや、でも…」
そうは言うが、そんなわけにいかない。
「何度も叫ばれたら耳が痛い」
う…。
「おい。足、踏んでるぞ」
「って、わ~っ!!すみません!」
慌てて飛び退けようとするものの引き寄せて離してくれない九条に戸惑うと「こうして歩けばいい」という言葉に甘える形で、結局ピッタリ横にくっついて歩いて行くことになった。
怖くはなくなったけど、逆に心臓に悪いんですけどぉ…。
暴れる心音とは別に何故か心はホッとする。
体温を感じ、鼻孔には香水の香り、チラッと見上げると九条の視線が向けられる。
なんだろう、この感じ…。
おかしくないかな?
男同士で肩を並べるだけなら、まだおかしくはない。
しかし男同士というだけでも目立つが、恋人でもない九条に腰を抱かれて歩くのはどうなのか?
他の人間から見ると疑問に思われるのは間違いない。
しかも何だかムズムズして落ち着かない。
それを言うと妥協案で結果、九条の腕に自分が手を絡めるという形になってしまった。
見られたら絶対に変だと思われるよね…。
しかもこれ、どうみても僕が九条さんにくっついてる形になってるし。
今は人が居ないとはいえ、この先に他の客が居たら離そうと決めて今は大人しくする事にした。
自分から抱きついて迷惑をかけたうえに、九条にああも言われては…。
もう少しだけ、こうしておこう。
よく考えたら、なかなか九条さんにくっつくなんて出来ないもんね。
それに、こうして体温を感じているのが不思議と嫌ではない自分が居たからだ。
心臓がドキドキとまたおかしな音を奏でるが、祐羽は気づかない振りをした。
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