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第260話 暗闇で
こうして順路通りに歩いてく館内はライトアップしてあるとはいえ正直足元は薄暗い。
おまけに今見ている場所は海の効果音のみで、自分と九条の他には客は見当たらない。
時折視界の端に映る自分の影にすら、ビクつく始末だ。
特に水槽の無い部屋との境い目は暗いので、祐羽は闇に呑まれる感覚を覚える。
暗闇は正直苦手だ。
けれどライトのお陰で水槽が明るく輝いて見えるし、隣には心強い九条が居るので平気で魚の観察を楽しめた。
しかし深海コーナーになると一転。
今までより一段と暗さが増す。
水槽よりも剥製等の展示物が多いうえ、青の照明が申し訳程度にほの暗く照らされていて、音響も洞窟を思わせる様な水の響き。
おまけに九条と自分以外の客が見当たらない。
これ、イメージは海底っていうよりお化け屋敷だよね…。
明るい場所なら楽しめたと思うが、暗闇の中にぼんやり浮かぶ剥製。
周りに人はおらず流れるBGMも独特で、思わず無意識に九条にピッタリとくっついて歩いてしまっていた。
このコーナーは早く抜けよう。
そう思い九条へ声を掛けようとしたその時だった。
「わぁーーーっ!!!?」
ホールとホールの継ぎ目である暗闇から突然ぬっと影が現れ祐羽は悲鳴を上げて思わず九条へしがみついた。
そして顔を九条の胸元へ押し付けて、視界を遮る。
そんな自分の頭と背中を大きな手の平が優しく包んでくれる。
助かった!と一気に安心感に包まれた。
「驚いたみたいだ。悪いな」
「あ~いえ…、大丈夫ですよ」
九条がそう言うと、誰か知らない男から戸惑いの返事があった。
「それじゃぁ、楽しんでください」
「あぁ」
誰?と思う祐羽の後ろを人の足音が静かに通りすぎて行く。
体勢はそのままに視線だけでそちらを見ると、制服姿の飼育員が隣のホールへと歩いて行くのが見えた。
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