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第268話 悪意

ついでにと、トイレを済ませる。 それから手を洗いながら鏡を確認すると、なんとか顔の赤身は収まってきていた。 良かった…。 入った時に鏡で見た顔は、明らかに真っ赤だった事を思うと今は頬の一部が染まってるだけだ。 これくらいなら薄暗い館内でバレる事はないだろう。 「これなら大丈夫だよね…」 九条を待たせている。 そろそろ戻らなければ、と祐羽はトイレから出たが、そこに立つ人物を見てギクッと肩を揺らして足を止めた。 通路の途中の壁沿いに、あの女の子が寄りかかり立っていた。 祐羽の姿を見ると、スッと壁から体を離した。 腕を組む姿は彼女の容姿には到底似合わない。 その強い圧に苦手意識も手伝って、祐羽は情けなくとも押されてしまう。 「ねぇ。あんたさ~、さっきから見ててウザイんだけど」 「え?」 唐突に棘を持った言葉を投げつけられて面食らう。 「入り口で待ってる時もこっち何度も見てきてキモいし、あとアザとい感じで見てて気分悪いし」 知り合いでもない相手から一方的に敵意を向けられて戸惑うしかない。 別に彼女の事を見ているつもりはなかったし、アザといと言われる意味が分からない。 「あと、一緒に居たあの人あんたの何?アンタが媚び売って頑張ってるの見てて吐きそう。それとも何?イケメン連れてますって自慢してんの?」 媚び売ってる? 自慢?僕が? 何言ってるの、この人? なんで急にこんな事を言われないといけないの?! 彼女の意図するところが分からなくて、戸惑うしかない。 突然向けられた悪意に、祐羽の指先は冷たくなっていった。

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