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第270話 自慢出来ない

理由が分かれば自分でも何とか出来るのだが、覚えのない事で文句を言われても改善のしようがない。 それに九条に対しても機嫌よく過ごしてもらい、この後の話しをしやすくする為であって、媚びてはいない。 第一、何も自慢なんてしていないのだ。 自分と九条の関係は自慢出来るほど、親しくはないのだから。 「だって僕と九条さんは…」 はじまりを知らない人間に言われたくなかった。 こうしてふたりで出かけたのだって2回目であるし、九条と会話が成り立ってきたことも最近のことだったのだから、それを自慢出来る関係とはいえない。 目くじら立てられるほど親しくないのだ。 第一に本当は縁を切りたかった。 けれど、九条が話を聞いてくれて返事をして少しでも笑いかけてくれるのは正直嬉しい。 そして今一緒に時間を共有して楽んでいるのも事実で、もしかして気づかないうちに自分は浮かれていたのかもしれない。 その浮かれ具合が目に余ったという事だろうか? 楽しいからって、はしゃぎすぎてたのかな…? もしかして、九条さんも僕の相手するの疲れたかも…気をつけよう。 彼女の敵意には落ち込んだものの自分の目に余る言動に気づかせてくれたと思えばいい。 祐羽は気持ちを前向きに捉えようと(はしゃがない、うるさくしない)と自己暗示を行いながら九条の元へと戻った。 ホールへと戻ると、イルカショー始まりの知らせが館内へと流された所だった。 ゾロゾロと移動を始める人が多く、幸運にもあの女の子はというと、ショーへの通路へ向かう後ろ姿だった。 前向きにと思いはしても実際は、なかなかそうは思えない。 祐羽は内心ホッとして、今度は待たせている相手を探す。 そんな中、九条はというと一緒に見ていた水槽の場所から少し外れた所で腕を組んで壁に凭れ祐羽を待っていた。

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