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第273話 涙に潤む
理由も話していないし悟られない様にしていたつもりだが、自分がいつもと違うと九条にはバレていたらしい。
九条の不意な言葉がけに、なんだか目頭が熱くなってしまった。
なんて凄い人なんだろう…。
だから眞山や中瀬達にも慕われているのかもしれない。
話さなくても自分が辛い、悲しい…理由までは分からなくてもその気持ちを汲んでくれていた様で、正直言って嬉しい。
九条さん…ありがとうございます。
大きな手に力が入ったかと思うと不意に引き寄せられる。
さっきの決意がそれだけで揺らいでしまった。
祐羽はそのまま頭を九条の肩へと預けると、そのまま涙に潤む目を閉じた。
そんな二人を同じ会場で見て面白く思わない女子高生が居た。
少し前にトイレへと繋がる通路で祐羽を捕まえて釘をさしてきた笑琉 だ。
笑琉は皆から可愛いと言われ育ち、少し前にスカウトされてから読者モデルも始めていた。
そんな笑琉は自慢ではないが彼氏にも困った事はない。
今の彼氏は顔もまぁまぁカッコ良かったので合格点を出した。
そんな彼氏とは人の多い場所でデートをするのがお決まりだ。
擦れ違う人が自分に羨望の眼差しを向けてくるのが快感だからで、今日ここでのデートを決めたのは夜の水族館がライトアップでSNS映えがいいという2つの理由からだった。
彼氏が遅れるというので待っていれば、同じく待ち合わせの男子生徒が自分を見てくるではないか。
自分が可愛いから見られるのはいつもの事ではあるし仕方ないが…気にくわない。
その男子生徒は男とはっきりと分かるものの華奢で、どこか不思議と可愛い印象を与えてくる。
しかも笑琉を見た時の笑い方が控え目で、自分には持ち合わせていない大人しそうな性質が腹立たしく思えたからだった。
男のクセに…あいつイライラする。
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