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第283話 その頃、

しかし、自分にならばいいが人にあげるとなるとなかなかに悩む。 「九条さん。九条さんの部下の人達はクッキーとか食べたりされますか?」 「あ?…あいつらは何でも食う」 「そうですか。…あ、これも美味しそう。というかカワイイ」 そうしてスマホを見ていると、九条が祐羽の顔を少し覗き込んできた。 「うわぁっ?!な、何ですか?!」 何度目かの九条による心臓に悪い行為に、祐羽は身を仰け反らせた。 極近いとこに顔面偏差値天井の男がいるのだ。 心臓が万が一止まった時の責任をとって欲しい。 「先に行って見てこい。これ飲んだら直ぐに行く」 九条は驚く祐羽にコーヒーの入ったカップを少し上げて見せた。 「あ…、じゃ、じゃぁ先に行って見てますね。あの…待ってるんで早く来てくださいね…」 心臓はドキドキ鳴り続けてはいたが、なんとか平静な声を出す。 「…ああ」 フッと微かに笑って頷いて見せた九条を一瞥して、祐羽は空のカップとトレーを手にして立ち上がった。 それから「あっ!慌てず飲んで来てください」とひと言残して、歩き出した。 その頃、中瀬は眞山とふたりフードコートへ居た。 「お待たせしてすみません!」 中瀬は自分のハニーカフェラテと、もう片方の手に眞山の為にアイスコーヒーを持って早足で戻った。 「悪いな」 「い、いえ…!」 たかだか飲み物を注文するくらい何てことはない。 眞山の為に役立てたと思えば嬉しくて仕方ない中瀬は、ドキドキする心臓を押さえながら向かいの椅子へと腰を下ろした。

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