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第294話 大きな影に

店から出た祐羽は、走りたいのを我慢しながらも足早に九条の元へと向かった。 店やフードコートとは逆方向に向かうのは、祐羽しかいない。 賑やかな声を背にすると寂しさをより一層感じてしまう。 本当ならば今頃は二人でお土産を見ているはずだった。 それなのに、よりによって何であの人なんだろう…。 九条と女子高生と並んで座っていた姿が脳裏から離れない。 胸にモヤモヤしたものが溢れ広がる。 あの人と話しはしてほしくない…! とにかく九条から笑瑠を引き離したい。 九条さんは僕が誘って、それで来てくれたんだから。 だから僕と、 「?!」 店の角を曲がって直ぐに大きな影にぶつかり反動で後ろに倒れかけると、グッと引き寄せられて驚く。 その勢いで相手の胸元に思い切り顔を埋めてしまった。 「ぶふっ!!」 結果、顔面が潰れるくらいの衝撃で鼻をぶつけてチョロッと片方から涙が溢れた。 痛ぁ~っ、鼻血出たかも…って、相手の人! 鼻を気にしながらも相手が居たことに我に返り、祐羽が胸元から慌てて離れようとするとそれを許すまいと力が込められた。 「おい…どこへ行くつもりだ」 同時によく知る声が上から降ってきて、祐羽は驚きに顔を上げた。 「えっ…、く、九条さん?」 どうして? 「あの人は…?」 勇んで向かったものの何故か九条が目の前に居る。 主語もなくポツリと出たその言葉だけで、九条は全てを察したらしく鼻で笑った。 「それはお前が落ち込む原因を作ったあの女か?」 「えっ!!?」 「何を驚いている。お前ほど喜怒哀楽が分かりやすいヤツはいないからな」 「!!」 まさかの発言に目が点になる。 ということは、自分があの女子高生とトラブルになって落ち込んでいた事もお見通しだったということらしい。 何でもない事の様に九条はそう言って、機嫌よさそうに口の端を持ち上げた。

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