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第296話 触れる指先

「ついでに、お前への仕打ちに関して軽く注意しておいた」 「えっ?そうなんですか?!注意してくださったなんて…」 「反省した様だったな」 祐羽は言葉を鵜呑みにすると安堵して一気に力を抜いた。 「はぁ~…ありがとうございます」 これで自分が訳もわからず絡まれる事も、相手が九条へ関わる事もなくなると思うと正直嬉しい。 自分で解決出来なかったのは少し心残りだが、結果として問題は落ち着いたし、初めて強く自分の気持ちを出せた気もする。 その気持ちを言葉と態度にしっかりと出そうとするなんて、なんだか自分が成長してる気がしてきた。 九条と関わっていると、新たに色んな事が自分で出来るようになったし、やろうと思える。 心の強さを手に入れている様だ。 とはいえ九条とこれ以上どう関わっていくべきか…。 「ところで、どうした?」 突然思考を遮断される質問に、笑顔からキョトンとする。 「はい?」 何がですか?と訊こうとする前に顎をクイと持ち上げられた。 「え?あのっ?!」 「泣いたのか?」 「!!!」 図星をさされて恥ずかしさに顔どころか全身が赤くなり汗が吹き出る気がした。 九条と女子生徒が一緒に居るのを見て、何故か取られると思った。 九条は決して自分のものではないというのに、まるで自分のものというように図々しくも主張し、離れて行ってしまうのでは…と思い涙が溢れそうになった事は絶対に内緒だ。 言ったとしたら九条に怪訝な顔をされるのは必至で、何としても避けたい。 「なっ、泣いてません、泣いてません。今ぶつかった衝撃でちょっと出たんです」 鼻ばかり気にしていたので、涙まで気が回らなかった。 慌てて目元を拭おうとすると、九条の顎に掛けられていた手にスルリと頬を撫で上げられる。 かと思うと、目元を指でそっと拭ってくれた。 その行為に頭からボンッと音が出るほどに顔に熱が集まる。 「あぁっあっ…あり、がとう、ござい、ます…」 「ん」 恥ずかしさのあまり、祐羽はまるでロボットの様にカタコトな礼を述べる。 その赤い顔を九条は満足そうに目を細め見つめた。

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