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第297話 平常心

九条さん…その表情はよくないと思う。 祐羽は視線から逃れるように目元を伏せた。 九条はいつも突然だ。 こちらの気持ちにはお構いなしで、予想外の言動を行う。 そのせいで自分ひとりがあたふたしてしまう結果、いつもいい様にされてしまうのだ。 怖いだけじゃなくなってきたとか…どうしたんだ僕は…平常心、平常心。 とにかく九条さんを意識しすぎないようにしないと。 「おい」 「は、はいっ!」 漸く心を落ち着けたタイミングを見計らったかの様に、九条から声を掛けられて条件反射で返事をすると顔を上げた。 「買い物は終わったのか?」 そう問い掛けてきた九条は、既にいつもの様子だった。 さっきまで少し見せていたエロス…というと語弊があるが、魅力的すぎるフェロモン過多な表情は鳴りを潜めている。 けれど、その方が却って祐羽の精神的には丁度良かった。 「いえ…。まだです」 九条の事が気になって買い物どころではなく、お土産を戻して慌てて出てきたので何も買っていなかった。 それに、元々九条と一緒にお土産コーナーを巡ろうと考えていたのだから。 「一応、眞山さん達のお土産選んでみたんです。だけど、その~九条さんに確認して貰いたいなと…。一緒にお願いできませんか?」 「いいだろう」 鷹揚に頷いた九条に安堵すると「じゃ、じゃぁお店に入りましょう」と体の向きを変えた。 「あぁ。ただ、お前は先に入ってろ。俺はこれを捨ててから行く」 そう言って九条が飲み終わったカップを見せた。 「あのっ、僕が捨てて来ます」 普段なら部下がするであろうゴミ捨ても今は居ない為に、九条自らがするという。 自分の為に部下を置いて来てくれた九条に、これ以上の迷惑は掛けられない。 しかし提案を九条はサラリと却下した。 「いいから行ってろ。2度言わせるな」 「うっ。…はい。先に入ってますね」 こういう時の九条は威圧感が凄く、有無を言わせない。 決して怒ってるとか威嚇はしていないが、教え諭す口調で言われては仕方ない。 ふたりで店の入り口まで来ると、祐羽はスゴスゴと引き下がって店へと入った。 そして入って直ぐにチラリと振り返るが、九条は既に視界から消えていた。

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