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第300話 お買い物

九条さんまだかな? そんな事を思ったのも僅かで、先程目星をつけていたお土産を取り敢えず手に取っているとまた別のお菓子を発見する。 パッケージを見ているだけで楽しくなってきた。 さっきまでの憂鬱が取り払われたからだろうか。 いつもの調子に少しずつ戻ってきた。 「これ美味しそう。味も二種類あるし、サイズ的にも眞山さんと中瀬さんにどうかな~?ん~」 眞山さんと中瀬さん。それと部下の人達と先輩達に…あとはお父さんとお母さんにも買って~。 あ、でも渋谷先輩にはチケットのお礼で別の物がいいかも? 「あっ?!」 脳内で色々と悩んでいると、背後に人の気配を感じたと思ったら、現れた手に持っていた箱を全て取り上げられた。 いきなりの事に驚いてそちらを見ると、待ち人きたるだ。 「九条さん!」 そこには相変わらずの表情を張り付けた九条が、土産物の箱を手に立っていた。 「これで全部か?」 「いえ、まだですけど…お土産、僕が持ちます」 九条に荷物持ちなどさせられないと、今度こそ役立とうとするが、伸ばした手は箱に届かなかった。 長身の九条は祐羽の届かない場所に箱を逃がすと、渋い顔を見せた。 「お前の欲しい物をさっさと選べ。俺の部下には要らないからな」 「えっ?!いえ、それは出来ません。僕の我が儘で時間を作って貰ったし…。気持ちの問題なので!」 そう祐羽が力強く言うと、九条は「フゥッ…。好きにしろ」とだけ言って近くに重ねられていた買い物カゴに土産物を入れた。 それから籠を手にしたのを見て、そのあまりの似合わなさに祐羽はとても悪い事をしている気持ちになる。 ビシッとスーツの決まった男前がファンシーな空間で買い物カゴ片手に、高校生の荷物持ちで立っているのだ。 これ絶対に眞山さん慌てて籠を奪うだろうし、中瀬さんに僕が怒られるパターンだよね…。 うぅっ、ごめんなさい。 これは早く買って帰ろう! 「じゃ、じゃぁ九条さん。今度はこっち見ましょう」 祐羽が残りのお土産を物色しに移動する後ろを九条が籠を片手にお供するのであった。

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