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第325話 キス?

「わぁ~大きいトンネルあったよ!!」 「おおっ、本当だ」 その時だった。 ふたりだけの空間に突然、珍入者が現れた。 「うわぁっ…!」 「!」 驚いた祐羽は小さく声を上げると、慌てて九条を押し退けた。 思いきり九条から顔を背けてキスを逃れた祐羽は、トンネル水槽をキョロキョロ眺める小学生を見つけた。 後ろに父親が立っており、通路から母親と妹と思われるふたりも姿を見せた。 「あやうく見ないで帰る所だったわねぇ」 母親の言葉で、どうやら自分達と同じでトンネル水槽を忘れていたらしい。 もう時間的にもギリギリで、順路的にも戻る場所にあるトンネル水槽に他の客は誰も来ないと勝手に思い込んでいたが、それは間違いだったようだ。 よ、良かった~。 どうやら先程のキス寸前の姿は見られていない様で、その事に心底安堵した祐羽だったが、次に九条の事を思い出してギクッと肩をすくませた。 ま、まずいかも…。 勢いで思いきり押し退けたのだ。 逞しい九条が転んでしまう事はなかったものの、どう考えてもキスを拒否したのは良くないだろう。 いや、まって。 いきなりキスしようとする方が悪いし、第一に何でキス? というかキスだったの? そうか~あれはキスじゃなかったんだ。 九条さんが僕にキスするはずないし! 僕の勘違いだ~あぁっ恥ずかしい!! 「九条さん、すみません話の途中で。ビックリして突き飛ばしてしまって…本当にごめんなさい、大丈夫でしたか?」 眉を垂らして謝ると、当の九条はいつもの表情のまま小さく溜め息をついた。 「…大丈夫だ」 「うぅっ…本当にすみませんでした」 謝る祐羽の言葉に重なる様に、館内に曲が流れ始めた。

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