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第326話 閉館
『本日は~水族館へお越し頂きまして誠にありがとうございました。当館は間もなく…』
同時に館内放送が流れ、閉館の時間だと退館を促してきた。
「えぇ~もう終わりぃ?!」
向こう側から閉館を嘆くこどもの声が聞こえてきた。
それを宥め親子が出口へと向かうのが見える。
その姿を見送りながら祐羽は九条にポツリと声を掛けた。
「もう終わりみたいですね」
「その様だな。俺達も出るか」
もう終わりなんだ…なんだかあっという間だったなぁ…ちょっと残念。
まだゆっくり水槽を九条さんと見てみたかったな。
「…はい。そうですね」
九条に促され頷いた祐羽は、もう一度トンネル水槽を泳ぐ魚たちを見回した。
楽しかったな、水族館…。
誰も居なくなる空間は、どことなく淋しさが広がっていく。
ライトアップされた水槽を泳ぐ魚たちの揺らす水が反射して、天井に映る様は何とも言えない。
その光景は、いつまでも見ていたい気持ちにさせた。
それだけ今日の水族館での時間が自分にとって充実していたのだろう。
また来たいな。
バイバイ、また来るね…。
そう想いを残して、祐羽はトンネル水槽の出口で待つ九条へと駆け寄った。
ふたり並んで出口へ向かうと年配の係員が優しい笑顔で見送りに立っていた。
「ありがとうございました~。またお越しくださいね」
そう言いながら渡されたのはナイトタイムで入館した客へのお土産が入った袋。
先を行く九条が受け取らないので、自動的に一緒に居た祐羽は2つも貰ってしまった。
「僕達が最後だったみたいですね」
祐羽が出口を抜け少し歩いて振り返ると、先程の係員が館内へ戻っていき出口の門扉を閉じているのが見えた。
「そうみたいだな」
「あっ、九条さん。これ僕が2つも貰ってしまって、」
「必要ない。お前にやる」
やっぱり申し訳ないと思い訊いてみたが、やはり要らないと言われてしまった。
「…そうですか?やっぱり欲しいって思ったら言ってくださいね?」
それなら何が入っていたか位は伝えて、もしやっぱり要るとなれば渡せばいいかと気持ちを切り替えた。
何が入ってるんだろう?
祐羽はシャチのぬいぐるみを小脇に抱えると、ワクワクしながらさっそく袋の中身を取り出した。
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