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第340話 気遣い
九条のお陰もあって、安心感や穏やかな気持ちで食事を進める事が出来た。
幸いな事に刺身以外の料理は特に苦手で駄目な物は無く、カラシとワサビを横に避けるだけで美味しく頂けた。
口数の多くない九条なので、 食事の間も基本だんまりだ。
けれど、さっき九条が自分の為にしてくれた事へ感謝を述べたのがきっかけで、特に緊張する事も無く祐羽は合間で話しかけていった。
そこまでコミュニケーション能力が高いわけだもない祐羽だが、1度相手に気を許すと一気に警戒心を解いてしまう。
すると、頬を緩めて仲良くなれた嬉しさを全面に出して会話を始めるのが常だった。
「この天ぷら本当にサクサクしてて美味しいです」
「これは何ですかね?」
「…ん、美味しい!」
と言ったお喋りに、九条が短く応えるやり取りが繰り広げられた。
そうこうしているうちに祐羽の心配はご無用で、用意されていた料理はほぼ完食となった。
それだけ美味しくて、食べ過ぎてもたれる事のない料理ばかりだったのだ。
とはいえ、やはり少し祐羽には多かったのだが…。
「すみません。九条さん…」
デザートは別腹とはよく言った物で、果物大好きな祐羽。
飾り切りされたオレンジを手にしながら祐羽は頭を項垂れた。
「…気にするな。俺には丁度いい量だ」
「はぁ…、本当にすみません。ありがとうございます」
祐羽は礼を述べると、持っていたオレンジを口にした。
その間に九条は残りの料理をパクパクと口へと入れあっという間に完食した。
それから、果物の盛られた皿を祐羽の前へと置いてきた。
「えっ?!」
「俺の代わりに食ってくれ」
戸惑う祐羽へそう言うと、眞山に注がれた酒を口にした。
「あっ、はい!」
そう返事をした祐羽は、代わりに食べて貰った恩返しの気持ちで果物に手を伸ばした。
さっきは食べて貰ったから今度は僕が!
…九条さん果物苦手なんだな~何でも平気そうなのに意外だ。
っていうか、それよりこのメロン美味しい…!
その様子を九条は視界の端に捉えフッと微かに笑いつつ酒を味わっていた。
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