なんて思っていたら「…ぁ」と声が漏れた。 え？待って…。 そういえばすっかり忘れてたけど、もう九条さんと会わない様に今日話をするんじゃなかったっけ？ だったら、ここを奢って貰うわけにはいかないよね…。 夢現(ゆめうつつ)で頭からすっかりと抜け落ちていたが、ここにきて現実を思い出した祐羽は胸の辺りがズキッと痛むのを感じた。 何で？心臓痛い。 それにモヤモヤするし、なんか…色んなこと考えたくない。 祐羽は何処からか湧いて出たこの訳の分からない感情を誤魔化す様に、頭の隅へと無理矢理追いやった。 見送る女将達を見ながらも意識はそちらへは無い。 どうしよう…食事代、払わなきゃだよね。 それにお父さんの仕事の事とか、何で僕を呼び出したりするのかとか聞きたい事はまだあるのに…どうしよう！？ 話をいつどうやってしようかと考えるが、頭の中がグルグルと高速で無駄に回るだけで何も考えつかない。 全然いい案が浮かばないよ～！ そうこうしているうちに、当然の様に車へと促されて乗ることになってしまった。 どうしよう、どうしよう。～っ、どうしたらいい？ このままでは、九条の家へと向かう事になる。 そうなれば、肝心の話なんて出来そうもない。 元々、今日水族館へ行く事にした目的は、九条へ抱いている疑問を問い、そして二度と会わないで欲しいと伝える為の計画だった。 緊張しないで話すにはリラックス空間でするのが１番だったし、九条も落ち着いて話をしてくれると思ったからだ。 それに、多くの人が居て万が一の時は助けて貰えるのでないかと思って選んでいた。 それなのに話を全部して関係を終えるどころか、一緒に水族館見て周るのもイルカショー見たのもお土産選ぶのも…。 祐羽は膝に乗せているシャチのぬいぐるみの目をじっと見下ろした。 九条さん、優しくて一緒に居て、僕…。 何だか目頭が熱くなってきて、祐羽は視線を車外へと急いで向けた。