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第344話 夜に降り立つ

とうとう九条の家に着いたと思い顔をゆっくり上げて外を見ると、そこは全く知らない場所だった。 「え?」 ここ、どこ? 涙に潤んだ目はそのままに見るが、やはり全く知らない場所だ。 祐羽はグイッと手の甲で僅かに盛り上がっていた涙を拭い、今度は広い範囲に目を向けたが薄暗くてどんな場所かもはっきりとは分からない。 九条さんの家じゃない…。 ここで不安が生まれ、思考がマイナスへと傾き掛ける。 前に店で働かせられそうになった様に変な事をしろと言われたり、まさか殺されたりする可能性も…そこまで考えて否定する。 何考えてるんだろ、僕。 そんな事を九条さんはしない。 ヤクザの組長さんだけど、九条さんは違う。 いい組長さんだし、九条さんが本当に怖い事をしないの知ってるし…。 さっきまで一緒に水族館であんなに楽し、 「あ…」 視線の先に動く影を見つける。 よく見ると此処は普通に公共のスペースの様で、他にもチラホラと少しだが人が往き来しているのが見えた。 「ふうっ…」 ほら、やっぱり大丈夫だった。 それはそうだよね。 …それにしても、ここどこだろう? 不安は無くなったものの今度は疑問は湧いて出て、祐羽は何かヒントになるものは無いだろうかとキョロキョロとした。 すると、外側からドアが開かれた。 「どうぞ」 「あっ…はい」 眞山に促されて祐羽は膝の上からシャチを座席に残して、何処かも分からないまま車からゆっくりと降りた。 少し涼しい風が駆け抜けて、それに連られ顔をそちらへ向けると、思わず小さくも感嘆の声を上げてしまった。 「わぁ……」 祐羽の目は、キラキラと光るそれに釘付けになった。

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