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第356話

それからその手が頬を撫でて降りて行くが、そのまま頬に添えられた。 九条の手が今は妙に熱い。 もしかしたらそれは逆で自分の頬が熱いのかもしれない。 影が落ちる。 祐羽が目を丸くする時には九条のが視界いっぱいになっていた。 チュッというリップ音と共に唇に覚えのある熱い感触があり、祐羽はそれを理解できず身動きひとつ取れなかった。 いつ振りにキスなんてされただろうか。 生まれて初めてのキスはもちろん覚えている。 好きでも何でもない同じ性を持つ男に同意も無くされた。 思い出にもしたくないと、忘れたいと強く願ったあの夜の…それが今は嫌悪など微塵も感じていない自分。 そんな風になるなんて、あの時の自分に教えても信じないだろう。 今はキスされた事実を脳が確認しているだけだ。 呆然とする祐羽に九条はもう1度優しく啄む様なキスをした。 声も出ない。 嬉しい気持ちがある一方で、九条のくれたこのキスの意味が分からない。 何でキスをしたのが、まださっきの答えも聞いていないのに…。 「祐羽」 「!!?」 九条に初めて名前を呼ばれた。 心臓が大きく震える。 怖いくらいに、目眩を起こしそうな程に嬉しい感情が興る。 「お前を手放せそうもない…」

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